見出し画像

バリ島紀行 * 夜に見る白日夢~ワヤン・クリッ

ワヤン・クリッ。
バリ島、そしてロンボク島に伝わる影絵芝居。
初めてバリ島を訪れた時からずっと、観たいと思っていた。
バロンダンスやケチャのようにメジャーではないけれど、滞在中、どこかしらで必ず上演はされていた。
でも、観なかった。
それはなぜか。
影絵芝居は開演時間が遅い。だいたい夜の8時以降。

南の島に行ったら、真っ昼間から酒を飲むでしょうに。その時間、酔っ払っているでしょうに。

そんな遅い時間まで我慢できるわけがない。
青い海、眩しい太陽ときたら、ビールを飲まないわけにはいかない。

と、まあそんな単純な理由で諦めていたんである。

今回、宿泊したウブドのホテルから、わりと近くで上演されていることがわかった。

昼間はツアーに出ているし、帰ってきて少し休んでから行くにはちょうどいい。

これを逃したら二度と観ることはできないかもしれない。
「送迎してあげるよー」
と、ガイドのマデさん。
長い名前のお寺ツアーの帰りにチケットを買い、一旦ホテルに戻る。

微妙に空いた時間に、ホテル内のカフェでビンタン・ビール。
ただ、影絵を見るだけなのに、ドキドキしている。

上演場所は小さなホテル、オカ・カルティニの、これまた小さな簡易劇場。


折り畳み椅子に座ってしばし待つと、スクリーンの向こう、妖しげな蝋燭の火に、影が映し出された。

影絵人形たちを操るのは、ダランと呼ばれるたった一人の人形師。
他数人が楽器を奏でる中、ラーマヤーナの物語は進んでいく。

インドネシア語に、時折英語のジョークが混じる不思議な舞台に、否応なく引き込まれる。
神が棲む島バリ島で、夜に垣間見る白日夢、とでもいうのだろうか。
言葉にするには艶かしすぎる非現実。

バリ島に行ったらこれを観よ、とまでは言わないけれど、他では絶対に体験することのできないあやふやな、それでいて心地好い時間。

ぼーっとしているうちに、終わってしまった。

「写メタイムだよー!」
と、ダランの明るい声が現実に引き戻してくれる。


今から弟子入りしたら、同じことできるかしらん? と、真剣に考えてしまった。

夜の白日夢から覚めぬまま、ホテルのカフェで遅い夕飯。

庭の蓮池は染々美しく、オサレな盛り付けのナシチャンプルも美味しい。

残念なのが、もっと劇の内容、ラーマヤナの物語を頭に入れておけばよかったこと。日本でも年一、夏の頃に上演しているみたいなので、行ってみようかな。来年のその頃には忘れているだろうけど。

いいなと思ったら応援しよう!