通りすがりの街~モルディブ・フルレ
新婚旅行先として不動の人気No.1、ダイバー憧れの海が待つ環礁―モルディブ。
この美しきインド洋の国には、実に100以上ものリゾート島がある。
ボートでは渡れない島に行くためには水上飛行機を利用する。目視で飛ぶので、日が落ちてから国際空港に着いた場合は、首都マーレか空港のあるフルレのどちらかに一泊する必要がある。
マーレの方がリーズナブルなホテルがたくさんあるのだけれど、私は絶対にフルレに泊まる。
モルディブはイスラム教。マーレのホテルでは、お酒が飲めないのである。せっかくのバケーション。お酒が飲めない夜なんて、あり得ない。飲めるのは唯一、フルレ・アイランド・リゾートホテルのみ(注:2013年頃のことです)。
マーレのホテルに比べるとかなり割高だけれど仕方がない。
ホテルに着いたら早速、バーに繰り出す。イスラム圏だしホテル併設だし、当然、高い。それでも背に腹は代えられぬ。
バーの片隅で、ガラスの壺のようなものからホースで何かを吸い上げている人々を見た。これが、噂でしか聞いたことのない、シーシャ(水タバコ)だった。
「吸ってみるかい?」
興味本位で眺めていたら、声をかけられた。
恐る恐るマウスピースを口にすると、青リンゴのような爽やかな香りが鼻腔に広がった。普通のタバコよりずっと美味しい(当時はスモーカー)。明日、移動するリゾートまで持っていきたくなってしまったくらい。もちろん持っていけなかったけれど。
後にも先にも、シーシャを試したのはこの時一度きり。日本でお目にかかることもないだろうと思っていたら、最近、シーシャ・バーなるものが流行ってるって?
私の住む街の商店街でもシーシャ・バーオープンの貼り紙を見たけれど、結局、一度も開いているところを見たことはなかった。
シーシャは一度試せば満足だけれど、モルディブの素晴らしさは一度はまったらなかなか抜けられない。
最後に訪れてから既に10年。聞いたところによると、お隣の大国に侵略され、静かで平和そのものだったリゾート時間は、失われつつあるらしい。
海の生態系も変わるだろう(実際、パラオあたりは生態系が変わってしまった。これについてまたの機会に)。
淋しいけれど、これが現実。
弱者となった日本のトラベラーは、指をくわえてパンフレットを眺めているしかできない。
過去写真を眺めては、溜め息が出る円安時代、どうにかならないかな。