Tシャツでめぐる旅#02 東京駅~あの時彼女は「仙台?」と聞いたのだ~
暦の上では秋なのに、駅構内の人混みの中にあっては、半袖Tシャツでもまだ十分に暑かった。その日の午後、私と亭主は東京駅でランチを食べるお店を探していた。下調べが甘かった。目的のお店がまさかの改札外。仕方なくあっち行ったり、こっち行ったり、数十分間動き回るも、お昼時とあって、ここは、と思う店はどこも行列ができていてしかも高い。もうあまり時間がないので、適当に空いている店に腰を落ち着けた。そこで選んだランチメニューの担々麺は、とにかく潅水の匂いが強烈で、味の濃いスープと一緒に飲み込まなければとても食べられたものではない。空いている理由がこれでわかった。
味はともあれお腹は膨れたので、新幹線のホームへ向かうために地下街からエスカレーターに乗る。途中、反対側の上から下りてくるエスカレーターに乗った若い女性がこちらをじっと見つめていることに気がついた。
すれ違い様、彼女は笑顔で私たちに声をかけた。まるで親しい人に、久しぶりに会ったかのように、とても嬉しそうに。一瞬のことだったので、彼女が何を言ったのか、その時は聞き取ることができなかった。とても短い言葉。おそらく単語。
地上に着いてから、はっと、私は気づいた。
「仙台?」
彼女はそう聞いたのだ。
私たちは二人とも、The Street SlidersのTシャツを着ていた。それより数カ月前に武道館で開催された23年ぶりの復活LIVEで買った、オフィシャルTシャツだ。
この日は、新幹線に乗って仙台で行われる秋ツアーのLIVEに参戦すべく、東京駅に来ていたのだ。
公演当日、東京駅でオフィシャルTシャツを着てうろついている人物。それはほぼ間違いなくThe Street Sliders仙台公演に行く人間だったろう。他の用事で東京駅を訪れてたまたま私たちを見かけたのか、彼女も参戦予定で、その後、新幹線で仙台へ向かったのか、今となっては知る由もない。でもツアースケジュールを知っていたのだから、彼女も相当なファンだろう。せっかく声をかけてくれたのに、理由もわからず、返事もせずに通りすぎてしまった。
こんな風に、人と知り合うチャンスというものは、案外どこにでも転がっていて、それを摘み取るか見落とすかで、運命の歯車が変わることがあるのかもしれない。
残暑が続いていた東京はTシャツ姿で問題なかったけれど、仙台に着くとやはり肌寒い。LIVEで燃えた後は日も落ちて、Tシャツに染みた汗でさらに冷える。
牛タン弁当を買って、帰りの新幹線を待っていると、ホームには、一人だけThe Street SlidersのTシャツを着た男性がいた。東京・神奈川の公演にはずれて仙台遠征したのかな。私たちみたいに。
長いホームを見渡して、彼女の姿を探したけれど、見つけることはできなかった。