
厠の扉は夜開く~そこに山があったから
なぜ、私は山を登っているのか。しかもデコボコした岩石ばかりでほぼ直角といっていいハードな山を。
命綱を伝って、私は山を登っていく。
ようやく頂上に着いた。今度は反対側を下っていかなくてはならない。
登るよりもはるかに難しい。
うっかりすると何十メートルも一気に下降する。
途中、綱の長さが足りなくなったり。踏み込んだ岩が崩れたりと、散々だ。
そもそも登山なんぞ興味はない。
怖いし金はかかるし疲れるし、何より、寒い。
山は遠くから富士山を眺めるだけで十分だ。
で、岩山を下っている途中、ベースキャンプのような所で若い男女数人の登山グループに会った。
「素人が一人では無理ですよ」
と、彼ら、下山の協力をしてくれるという。
やれ、ありがたや。
ひとまず安心して、ずっと我慢していたトイレに行く。
ベースキャンプの掘っ立て小屋の中。がらんとしたスペースの真ん中にぽつんと洋式のトイレがひとつ。
きれいなトイレなんだけれど、蓋を開けるとちょっと変。
何かが浮かんでいる。
プラスチック製の貯水袋のようだ。
「それ、出さないでね」
と、先程のグループの女の子が言う。
出すなと言われても、どうやって用を足せばいいのか。
「袋にかからないようにしてくれればいいから」
って、いやそれは無理でしょ。
その子の目をこっそり盗んで便座に座る。
んがっ。
その袋が段々大きくなって、便器いっぱいにまで膨らんだ。
こりゃダメだ。
座っていられなくなって、諦める。
「そろそろ、行きますよー」
と、先程の女の子。
トイレ、まだ済ませていないんだけどなあ……。
つか、登山、もうやりたくない。
もちろん夢の中の話しです。
本格的な長丁場の登山の場合、用を足すのは体力を消耗するので、垂れ流しにすることもあるのだそうな。
女性の場合、ピルは高山病を引き起こす可能性が高いから、生理も自然にまかせるのだとか。
クライマーの皆さんは本当に凄い。
命かけてまで挑戦しようと思える何かがあるって、この世に生まれてきた意味があるということ。
私のような怠け者は、猫と戯れながらビール飲んでこれからもぼーっと生きていくのだろう。
そして時々、変なトイレの夢を見て、ちり紙にもならない文章を書くのだろう。
山に登らないことだけは確かだ。