スチームアイロンが壊れた記念の話
機械というのはテレビアニメみたいにガタンバコンと音を立てて壊れる事はほとんど無くて、ある日静かに機能を停止する。もしかしたら前触れとかもあったのかもしれないが、そんな事かんがえながら毎日生きてる訳では無いから「突然壊れた」となる。
我が家のスチームアイロンもそうだった。
父は3年程前にスチームアイロンを購入した。パナソニックのそこそこに良いやつだと思う。なんで買ったかは知らないケド、確かその辺で冷蔵庫も買ったからパナソニックブームになってパナソニック製品を買いたくなって買ったんだと思う。
そこから自分の衣類のアイロンがけがルーティンになって、YシャツにTシャツ、ズボンに果てには靴下までしっかりとシワを伸ばしていた。仕事でよっぽど遅くならない限りは帰宅したらまず、アイロンがけをして、休みの日だって欠かさず行っていた。
「コレは消臭機能も付いてるし、服に直接付けなくてもスチームでシワを伸ばすんだ」といつも自慢気に話していた。
ルーティンが基本的に作れない自分からすると毎日毎日すげぇなと心の奥で思っていた。
そんな父愛用のスチームアイロンが今日壊れたのだ。自分が昼寝をする近くでいつものように父はアイロンがけに勤しんでいた。突然、「アレ?アレ?」と訝しげにする声で目が覚めた自分が体を起こすと父はスチームアイロンの底を覗いては首を傾げていた。どうやらスチーム機能が起動しなくなったらしい。あーでも無いこーでも無いと言いながらしばらく時間を置いて電源を付け直したらスチームアイロンはまた起動したらしく再びアイロンがけに戻った……と思えばまた「あ!!」と声をあげていた。
見るとアイロンがけをしていたであろうYシャツを見ると焦げっぽい跡が付いていて、底からは水がボタボタと盛れ出したのだ。
「なんか、スチームアイロンがおかしい」と父は言う。普段冷静な父だが、電子機械が上手く機能しないと謎にパニクる(消して機械音痴という訳では無いのだが)。その後、母が来て父と一緒にあーでも無いこーでも無いと改善を試みたがスチームアイロンの底は温まること無く、少しずつ無機質な冷たさに戻って行ったのである。
コレは紛うことなき故障である。
そりゃあ3年間毎日毎日使っていたのだ。どこかにガタが来たっておかしくないだろう。しかしながら父はその現実を認めたくないようで「さっきまで使えてた、昨日は普通だった」と繰り返し言っていた。「そうは言ったって物は突然壊れるんだよ…」と諭したい気持ちをグッと抑え、父と自分と母の3人で電気屋さんへと向かう。スチームアイロンが壊れて不機嫌な父を横目にやれやれとした気分になる。やれやれってホントに思う事あるんだなぁと呑気な気持ちになったのはここだけの話だ。
そんな紆余曲折がありながらも無事電気屋さんにてスチームアイロンを購入する事が出来た。新しい父の相棒は前回のホワイトからカラーチェンジしてブラックになった。メーカーは変わらずパナソニック。見た目はそんなに変わらなかったが、機能性は3年間の間でパワーアップしたらしく、スチーム機能になるまで早くなったり、なんか色々と便利になったらしい。
現金なもので新品のスチームアイロンを手にして父は満足気であった。帰宅すると早速中身を開けてアイロンがけを始めた。
3連休の初日にドタバタな1日だったなぁと思ったが、よくよく考えれば3年間もほとんど欠かさずアイロンがけをしていた父にとって先代のスチームアイロンはとても大切なものだったんだろうなと思う。そう思うと今日はスチームアイロンと父が3年間頑張ってきた節目の日とも言える。壊れるのは残念な事だけど壊れる程アイロンがけに勤しむ父とそれに応じてくれたスチームアイロンに「お疲れ様」という気持ちを込めて記念日にしたいと思った。なので、晩ご飯時には「スチームアイロンありがとう」と言いながら乾杯をした。と、同時に新しいスチームアイロンとの新たな門出になるのでこれもまた1つの記念としてnoteに記す事にした。
これからは新しい相棒と共に父はまたアイロンがけをしていくのだろう。
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