【山雅2022レビュー】vs長野|J3第31節|Part 2
Part 2では、後半の試合内容について振り返る。
・長野の修正
・山雅のシステム変更
・下川、篠原、野々村、宮部、そして監督に対しての個人的な評価
Part 1 ↓
前回の対戦↓
2022.10.30
J3 第31節
松本山雅FC
×
AC長野パルセイロ
~スタメン~
~後半開始時~
山雅
変更なし
長野
HTの交代:坪川 → 川田
川田:右WB
佐藤祐太:右WB → アンカー
~試合展開~
長野のビルドアップの修正
長野はハーフタイムに修正を加えたことで、ビルドアップが安定するようになる。
その修正点は、三田と森川のポジショニングである。
長野は可変を行い、4-2-3-1の形でビルドアップを行う。
その時SHの位置を務める三田と森川だが、前半は、ポジショニングが中央寄りになっていた。
後半は、三田と森川のうち、少なくともボールサイドの選手は、しっかりサイドに開いて幅を取るようになっていた。
修正の恩恵
幅を取ることにより、山雅WBが長野SBに対してプレスをかけるとき、三田や森川がパスコースをしっかり作ることができていた。
また、幅を取ることで、三田や森川に対して、CB常田や篠原が寄せづらくなった。
前半は、中央からサイドに移動しながらパスを受けていたため、三田や森川は、身体が後ろ向きかつ外向きの状態になっていた。
そのため、常田や篠原はためらうことなく寄せることができていた。
しかし、後半は、初めからサイドに開いているため、身体が前向きの状態でパスを受けることができる。
この状態だと、常田や篠原は、迂闊に突っ込むとかわされるリスクがあるため、前半のように強く寄せることができなくなっていた。
耐える山雅
長野がビルドアップを修正したことにより、山雅はプレスが空回りし、奪いどころが定まらなくなってしまっていた。
そんな山雅は66分、野々村・宮部・田中パウロを投入し、システムを5-2-1-2から5-3-2に変更する。
5-3-2に変更したことで、プレスの形も変わっていた。
これまでは、WBが長野SBに対してプレスに行っていたが、5-3-2に変更後は、WBではなく、IHの佐藤・田中パウロが出ていくようになった。
これにより、WB下川・宮部は、サイドで幅を取っている長野SH森川や、途中出場の藤森のマークに集中できるようになり、よりタイトに守備を行うことができる。
結果、山雅は、ボールを回されてはいても、簡単には崩されにくくなり、しぶとく耐えるような守備ができるようになっていた。
~試合結果~
松本山雅FC 2
26' 横山 85' ルカオ
AC長野パルセイロ 1
63' 三田
~ハイライト~
~下川は悪くない~
※これから出てくる監督のコメントは、この記事から引用しています↓
「下川と篠原が縦ズレとスライドするところで、(試合前のホワイト)ボードに『Go or Stay』と書きましたが、結局行く行かないのジャッジをお互いにできていなかったなと。」
「少し遅れても行ってしまうシーンが続いて、軒並み相手に深いエリアに運ばれたり、クロスを上げられたり」
という監督のコメントから、右サイドの守備に満足していなかったということが窺える。
66分、右サイドの下川・篠原のユニットを解体して野々村・宮部を投入し、改善を図ろうとしていた。
このことに関して、次の3つのポイントを軸に振り返る。
下川のプレーは悪かったのか
野々村・宮部のプレーは良かったのか
監督の采配は良かったのか
①下川のプレーは悪かったのか
まず、下川について。
後半、山雅は右サイドから攻められてピンチになることが多かった。
だからこそ、右サイドの下川・篠原の守備が良くないという印象になってしまったのかもしれない。
特にそういう印象を作ってしまったのは、右サイドを崩されての失点シーンだろうか。
そこで、失点に繋がるシーンを振り返る。
62:31の瞬間の、選手たちのおおよその配置は下図の通り。
この状態から、水谷にパスが入る。
下川が縦ズレして水谷に出て行き、篠原がスライドして、森川の方を見る。
この、下川の縦ズレという判断は間違っていたのだろうか。
このシーンで水谷に誰が寄せるのか、という問題に対して、選択肢としては、下川か佐藤の2択である。
ただ、佐藤は5-2-1-2システムのボランチであり、まずは中央を抑えるということが求められる。
実際、直前まで、中央にいるトップ下の山中をマークしていた。
下川からすると、
「ボランチの佐藤を簡単にサイドまで出張させるわけにはいかない」
「でも、待っていても他に誰も行けそうもない」
「だとしたら、自分が出て行くしかないか」
という考えになるのは、自然なことだと思う。
仮に、下川ではなく、佐藤が水谷に寄せた場合も、中央を経由して、パウリーニョの左側に広がるスペース(Part 1の最後に説明したような形)を使われ、ピンチになっていたはずである。
結局、今回の失点は、下川が縦ズレしたところから始まっているのだが、このシーンのように、「下川が行っても地獄、佐藤が行っても地獄」という状況がなぜ起こってしまうのかというと、山雅が5-2-1-2というシステムを採用しているからである。
もしシステムが5-3-2だった場合、水谷にはIHが寄せることになる。
下川が強引に縦ズレする必要もないし、逆サイドに簡単にスペースを与えてしまうこともない。
5-2-1-2だからこそ、下川が縦ズレするかどうかの判断に苦しむ展開が生まれていると考えられる。
システムが、選手を振り回してしまっている。
②野々村・宮部のプレーは良かったのか
次に、野々村・宮部について。
二人のプレーについては、特に悪くなかった。
ただ、下川・篠原と比べて抜群に良かったかと言われると、別にそういうわけでもないと思う。
では、なぜ二人の投入後に山雅の守備が安定したかといえば、それは、投入と同時に、システムを5-3-2に変更したからである。
5-3-2に変更したことにより、長野SBに対しては、IHが出ていくようになった。
このお陰で、宮部は縦ズレをする必要がなくなるし、野々村も横にスライドする必要がなくなる。
自分達の近くにいる相手選手への対応に集中することができる。
下川・篠原は、自分達の近くへの対応だけでなく、スライドするかどうかの判断を毎回強要され、後手を踏み続けていた。
一方、野々村・宮部は、その判断に頭を悩まされることがなかった(全くとは言わないが)。
野々村・宮部の職場には、自分の能力を最大限に発揮するための良い環境が整っていた、という感じである。
野々村・宮部は良かったけれども、だからと言って、下川・篠原ができなかったことをやってのけた、ということではない。
というか、職場環境が全く違っていたのだから、どちらの方が優れていたかというのは、比較することは難しい。
③監督の采配は良かったのか
最後に、監督の采配について。
野々村・宮部・田中パウロを投入し、システムを5-3-2に変更したことで、守備が安定した。
だからと言って、「監督、見事だな」とは個人的には思わない。
理由は2つ。
一つ目は、守備の問題の原因を、「5-2-1-2というシステム」ではなく、「下川・篠原のスライドの判断の悪さ」だと考えていたこと。
「後手になっても無理やり縦ズレしようとしていた右サイドをどうにか替えたかったので、野々村、宮部という同期の2人を入れて、彼らのあうんの呼吸でそこのパワーを抑えたかった」
というコメントからも、「下川・篠原を替えれば改善できるだろう」という思いが伝わってくる。
しかし、前述した通り、5-2-1-2で守っていれば、どうしたって後手に回ってしまう。
(前半うまく守れていたのは、長野の選手が幅を取っていなかったからである。)
下川や篠原のせいにされているのは、かわいそうだと感じる。
二つ目は、5-3-2へのシステム変更に至った理由である。
「田中パウロに関してはダブルボランチのトップ下というのは彼にはまだ荷が重くて、守にわたってのポジショニングの修正などをできないところはあるかもしれないですが、1アンカー2シャドーになると攻撃へのタスクと自分が前向きに守備できるという利点を彼自身もよく理解しているので、あのまま突っ込みたいと思ったところです。」
というコメントから、5-3-2へ変更したのは、「田中パウロが5-2-1-2というシステムに合わないから」だと分かる。
逆に言えば、「5-3-2にすれば、WBの強引な縦ズレがなくなり、守備が安定しそうだな」と考えていたわけではなかったということ。
「勝ち越した後はダブルボランチに戻しています」
というコメントの通り、システムを5-2-1-2に戻してしまっているということも、その裏付けになっている。
つまり、5-3-2に変更し、守備が安定したのは、意図的ではなく、たまたまだったということになる。
(ちなみに、以上の2点とは別に一つ気になるのだが、「下川の判断が悪い」と考えたのなら、その下川ではなく外山を交代させたのは何故なのだろうか。)
まとめ
下川のプレーは悪かったのか
野々村・宮部のプレーは良かったのか
監督の采配は良かったのか
という3つのポイントを振り返った。
野々村・宮部の評価を悪くしたい、というわけではない。
下川・篠原の評価が必要以上に低くなってしまっているのなら、それをなんとかしてあげたい、という思いで書いた次第である。
~終わりに~
今までも、5-2-1-2のシステムで戦っては、同じような問題が無限に起こっていた。
5-2-1-2のシステムを使えば、また同じようなことになるのは、分かっていたはず。
それなのに、下川や篠原のせいにされてしまうというのは、ちょっと…
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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