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『糸を渡す』
『糸を渡す』(短編集『ぎょらん』より)
町田その子著
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主人公は美生という女子高生。
父親が突然家出をしてしまうところから、物語は始まる。
母親の望む通りに生きてきた典型的な良い子なのだけど、高校生にもなって来ると母親の理想と自分の現実の違いにうんざりするようになり、ある事件をらきっかけに、母、娘は、大喧嘩をして、ほとんど口を聞かなくなっていく。それが、きっかけに父親が、家出をしたのだった。
一言でいうと、親子関係って何だろうというのが、大きなテーマ。
何年か前に「毒親」という言葉が、流行ったと思う。中野信子さんも、本を出していたしね。
親子関係が難しい理由として一般に言われていることというと、まず、世代間の価値観の違い、コミュニケーションの不足、期待と現実の不一致、経済的な問題、親のスキルや経験不足などがあげられる。
これは、人間関係全般にいえることではあるのだけど、相手と自分の感情や意見を理解し、調整していく必要があるのに、親子の間では、この辺も難しかったりもするのかなあと思う。
私自身はどうだったかと言えば、幼い頃は、比較的従順に親に従っていたと思う。親の目線を通して見た世界が、全てだったような気はする。中学生くらいから、少しずつ、世界が広がってくると、親の世界観って他と違うことに気づいてくる。そうして、自立していくわけではあるのだけどね。
自分も子供を持つ身になって思うのは、親は、親なりに一生懸命だったのだなあということ。親がバカみたいに褒めてくれていたお陰で、根拠のない自信みたいなものが育ったのだなあと思う。
自分は親として、充分なことをしてあげていたか、とか、逆に、悪影響をおよぼしていないだろうか?とか、思うと恐ろしい気持ちになる。
親になってわかったことは、親にとっても子育ては、初めてのことだってこと。自分の経験した中で、最善のものを提供したいと思うのだけど、それは、必ずしも、最善とは限らない。自分の子供が、成長している姿を見ると、よく無事にここまで育ってくれたなあとしか思えない気分になる。
本書に戻ると、美生が、老人ホームで介護のボランティア活動をする中で、出逢った老婦人茂子さんの知られざる過去、認知症になった今でも、出てくる絶縁状態の自分の子供の名前とか、、それが、茂子さんが、亡くなってしまうところで、そのねじ曲げられていた親子関係が、少しでも緩んで行く過程がなかなか、涙をそそられる。
美生にとっての親子関係、はたまた、美生の母親自身の親子関係の変化に、こころが暖められていく。
評判通り、素敵な物語だと思った。
yoasobi ハルカ