歌詞から小説|君はもう、ここには戻らない
この世は狂おしいほど残酷だ。
僕から家も、家族も、最愛の人でさえも奪い去ってしまう。
「リーン! リーン!!」
腕の中で血まみれになっている最愛の人に向かって僕は必死に声をかける。
上空では無数のドラゴンが飛び交い今も町に火を放ち続けている。
辺り一帯はすでに火に包まれ、呼吸をすることでさえ困難なこの場所から早く逃げないといけないことは分かっていたが、俺はリーンを見捨てることができずにいた。
リーンはすでに息をしていなかった。だけど、俺はそんなことには構わずにただひたすらにリーンの名前を呼んだ。
燃える町に俺の声が虚しく響く。
その日の空は炎に焙られたかのように真っ赤だったのをよく覚えている。
* * *
小さい頃から酒に逃げるような大人にはなりたくないと思っていた。
昔の俺が今の俺の姿を見たら幻滅するだろうな。
酒場の中は賑やかだけど、今の俺は到底あの賑やかな空間に入れる気はしない。
酒場の片隅で大量の酒を飲みながら俺はそんなことを思っていた。
あのドラゴンの襲撃から一年ほどが経った。
いまではあの時の面影が少しも残らないほどに町も復興し、周りの人は笑顔で生活を送っている。
そんな中俺は死んだリーンのことを忘れられず、少しでも楽になるために毎日酒を飲んでは酔いに逃げていた。
だけど、その程度でリーンを失った悲しみがなくなるはずもなく、俺はかつてリーンと過ごした日々を思い出しては泣きじゃくっていた。
そんな泣きじゃくる俺の手を誰かが優しく握って来た。
俯いていた顔をそっと上げると、そこにはリーンの姿があった。
「リーン!」
俺がその名を呼んだ瞬間、リーンは霧のようにその場から消えてしまった。
俺はリーンを探そうと会計もせずに酒場から飛び出し、一心不乱にリーンのことを探した。
ある通りに出たとき、そこにはリーンの姿があった。
そこはちょうどあの日にリーンが死んだ場所だった。
「リーン……」
俺は途切れそうなほど弱々しいの声でリーンの名を呼び、歩み寄った。
しかし、どれだけ歩み寄ってもリーンに近寄ることはできない。
それでもあきらめずに歩いているとリーンが小さく口を開いた。
「さよなら」
どれだけ歩いても近づくことはできないのに、その声だけはなぜだか俺の耳にしっかりと入って来た。
そして、その言葉を最後にリーンの姿はまた霧のように消えていった。
* * *
リーンが俺の前にやって来たあの日から、俺はずっとリーンのことを探し続けている。
あの日、俺の前にやって来たリーンは確かに「さよなら」と言った。
多分リーンはあの日俺にちゃんとお別れを言いに来たんだと思う。
リーンはもう死んでいる。分かってる。
死んだリーンともう一度出会えただけでも十分奇跡だということも分かってる。
それでも俺は、もう一度リーンに会いたい。
あの日の奇跡を俺はずっと探し求めている。
何千回と神に願った。もう一度リーンに合わせてほしいと。
そのたびにリーンのことを思い出して涙を流した。
けれど、リーンが俺の前に現れることはなかった。
満天の星の下。今日も俺はリーンを探し続ける。
一晩中。何か月。何年だって。もう出会えることはないと分かっていても。
「また会えたね」なんて君が笑って言ってくれる日を僕は探し続ける。
~END~