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半径5キロ圏内のお店に感謝を

私の街の緊急事態宣言が解除された。
子供たちも、来週末から学校が再開されることになった。

休業していた映画館も順次再開が決まった。
ありがたいことに、3月に見逃した映画が上映されると知って、仕事帰りの空いている時間に行こうかなと考えている。
5月に3月公開の映画を見るなんて、ちょっと時間が巻き戻ったみたいな不思議な感じ。

私の街は飲食店に対して休業要請はされなかったものの、自主的に休業や営業時間を短縮しているお店は多い。
夜の早い時間なのに外はもう真っ暗。幹線道路に車も通らない。まるでコンビニがなかった昭和の夜みたいだったこの数か月。

週末のランチによく行くご近所の中華料理屋さんも、もう長いことお休みしている。今、そこの熱々でキノコたっぷりの中華茶わん蒸しが食べたくてたまらない。
そうそう、あの喫茶店にはオリジナルブレンドのコーヒー豆を買いに行きたい。小さなパン屋さんでは香ばしいパンの香りを胸いっぱいに吸い込みたい。食べ放題の焼肉も食べに行きたいし、カフェで時間を気にせず読書やライティングもしたい。居酒屋で心置きなくお酒が飲みながら話したい。
娘とショッピングモールで洋服をゆっくり吟味して買いたいし、日曜のマルシェで新鮮な野菜とお酒のおつまみ用の魚の燻製が買いたい。
それから、友達とお肉屋さんの庭でバーベキューがしたい。
あそこのこってり焼きカレーも食べたいな。
だけど、今、お店が開いてない。短縮された営業時間が私の生活リズムに合わない。

緊急事態宣言が解除されたことで、いつ今まで通りの営業に戻るのか、指折り数えて待っている。

この数か月の自粛生活で気づいたのは、私は思った以上に、ご近所のお店に生かされていたということだ。
それから、おいしい料理、お酒、読書、映画、ライティング。
私の暮らしの楽しみは、半径5キロ圏内にあるお店で成り立っていたということだ。

日本中を探せば、もっとおいしいものがあるのかもしれない。もっと居心地よいカフェがあるのかもしれないし、もっと楽しいレジャーがあるかもしれない。もっと日用品や食料品が安いお店があるかもしれない。
でも、それって毎日できることじゃない。
仕事帰りに急いで立ち寄れるスーパー、週末の午後、読書がしたくてふらっと立ち寄るカフェ。散歩途中に寄り道する書店。顔見知りの大将がおまけしてくれる飲食店。
私の毎日を支えてくれているのは、こうした半径5キロ圏内になる小さな名もないお店たちだ。
こうして休業したり外出できなくなって、ありがたみを痛感した。

今回、休業や利用者の減少で、日本中のお店が窮地に立たされているのだろう。特に地方の小さなお店は人口減少や高齢化のあおりを受けて、ふだんから苦戦を強いられているから、そのご苦労はなおさらだろう。

中には発信力の強いお店もある。そういうところはSNSを使って、窮状を訴えることができる。
SNSの力は大きい。人が集まって、お金が集まって、窮状を救うことができる。それはそのお店の強みだし、そうやって人を集めるために、たゆまぬ努力を積み重ねてきたんだと思う。そこには敬意を表したい。
もちろん、そういう窮状を少しでも何とかしてあげたいと思う人の気持ちにも嘘はないと思っている。

でも、私はちょっと立ち止まって考えたい。
見たことも行ったこともないお店の窮状を憂う前に、自分の暮らしに彩りを添えてくれる近所のお店に目を向けたい。
見知らぬお店に使う数千円、数万円を、近所のお店に使いたい。
明日もあさっても、私の生活を支えてくれるお店に、感謝の気持ちを添えて、お金を使いたい。

発信力や営業力がないところは淘汰されるのかもしれない。新しいものを生み出して、顧客に刺激を与え続けなければだめなのかもしれない。
でも、変わらないものもあってもいいんじゃないかと思う。
いつも同じ笑顔で迎えてくれて、同じ味で、同じものが出てくることが、変化が速くてあわただしいこの生活の中で、私をほっとさせてくれる。
安心させてくれる。
だから、半径5キロ圏内のお店に元気でいてほしい。

私のできることなんか微々たるものだ。
フルタイムで働いているから、平日はお店に行けない。週末に出かける程度。それでも、近所のお店で買えるものは、通販で買わない。外食ランチなら近所のお店に行く。
同じ商品なら近所のお店で手に入らないか一度立ち止まって考える。
それくらいだし、自己満足と笑われるかもしれないけれど、それでいい。

今日は、緊急事態宣言が解除されて初めての週末。
雨が降っているせいもあるだろうけど、心なしか車の通りが多い。
雨の中駐車場で弁当を売り始めた焼肉屋さんの駐車場には、その弁当を求めて、マスクをした人が集まってきていた。
少しずつ、少しずつ新しい生活様式とやらになじみながら、近くのお店に気兼ねなく通える日が戻ってくることを願っている。


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