ツバメサブレに救われた日
その日、どうも気持ちがすっきりしなかった。
夕食の後も、まだ何か食べ足りなくて、チョコをつまんで、こんにゃくゼリーをかじって、果ては「コンビニにビールとポテチでも買いに行こうか」と思い始めていた。
冷蔵庫を開けたり閉めたり、部屋をうろついてみたりしながら、キッチンの隅に目が向いたとき、数日前にささいな笹さんから頂いたサブレを、封を切らずに置いていたのに気がついた。
その名も「ツバメサブレ」 岐阜県のお菓子なんだそう。
レトロな絵本を思わせるパッケージデザインがかわいくて、開けてしまうのが惜しくて、頂いてから眺めて楽しんでいた。
今日、ツバメサブレを開けていい日だろうか。こんなに心がざわついている日に食べてしまっていいんだろうか。ちゃんと味わえなかったら、くださった笹さんに申し訳ない。できれば万全の態勢で臨みたいんだけれど。
でも、食べたい。
思い切って袋の封を切った。
中から出てきたのは、500円玉より少し大きいくらいの丸いサブレ。
かじると、サクッと軽い音がして、しゅわっと口の中で溶けていった。全粒粉だろうか、香ばしい香りがする。素朴で優しいサブレだった。
「あ、これだったかも」
2枚、3枚と食べるうちに、ざわついていた心が落ち着いていくのが分かった。私に必要だったのは、チョコのような刺激の強い甘さではなく、優しい甘さだったんだ。
ツバメサブレを数枚食べ終えるころには、ビールとポテチを求めてコンビニに走り込みたい衝動がすっかり消えた。
ガツンと刺激の強い甘さは、自動車のアクセルのように、自分をぶんと加速させてくれるけれど、加速ばかりじゃ事故を起こしちゃう。適度にエンジンの回転を下げ、スピードを緩めてくれるブレーキが必要。
今日の私には、それがツバメサブレだった。
封を切ったサブレの口をクリップで止めて、冷蔵庫にしまう。
そのあと静かに、お風呂に入り、マッサージをして、本を読んで眠った。
とても穏やかな夜だった。