リンゴ1個でできるストレス解消法 #ハッピーになるかもしれない朝エッセイ
昼休みにリンゴを1つだけ買ったのは、このためだったかのかもしれない。
最近、仕事でイライラすることが多い。
同僚の横柄な態度とか、ちょっとズレた返答とか、「そんなんでいいのかよ」と心の中で悪態をついていることがある。
「シロクマを想像しないでください」と言うと、逆にシロクマを想像してしまうように、考えるなと思えば思うほど、気になってしまう。
誰かにグチりたくて、たまらなくなる。
口に出せば、絶対後悔して、自己嫌悪に陥ると分かっていても、腹の底にたまったマグマは、噴火するまで収まらない。
つい、わかってくれそうな誰かを捕まえて、マグマを吐き出してしまう。
そして、当然のように後悔と自己嫌悪。
自分の心の狭さに、ますますいら立つ。ああ、悪循環。
昨日もまた、同じようにイライラしてしまった。
でも、昨日は、マグマを腹に閉じ込めたままで、なんとか家に帰りつくことに成功した。
このまま、誰にもグチらず1日を終えたい。
寝て起きたら、きっと気持ちはリセットされるはず。
何か夜でも没頭できることはないか。
簡単で、楽しくて、それほど頭を使わなくて、結果が生まれるもの。
そうだ、ケーキを焼こう。
そういえば、息子がお弁当のデザートに入れた「リンゴケーキ」をうまいと言っていた。リンゴの季節が来たら、また作って入れると約束していたことを思い出した。
サランラップが切れたことを思い出して、昼休みにスーパーへ行った。野菜を買うつもりはなかったが、野菜売り場を通るとリンゴが目に入った。
思わず手に取った。生のリンゴはアレルギーで食べられないけど、家族の誰かに食べるかもしれないと思ったから。
でも、このために、無意識でリンゴを手に取ったに違いない。
そういうことにしておこう。
そして運よく、冷蔵庫にホットケーキミックスの買い置きもある。
お風呂から上がって、キッチンに立つ。
クックパッドでリンゴケーキのレシピを呼び出す。何回も作っているので、ブックマークしてある。
いつものように、YouTubeで静かな動画を再生し、リンゴを切る。
4等分してから皮をむく。できるだけ薄くむいていく。
それから、リンゴを5ミリほどの厚さにスライスする。シャクシャクとリンゴが切れる音は、多分、果汁がジュっと染み出す音。リンゴの甘い香り。
スライスし終えたら、ホットケーキミックスを冷蔵庫から取り出す。
100g。卵1個、牛乳75ml。合わせて、ゴムベラでかき混ぜる。
砂糖とバターをフライパンに入れて、加熱する。砂糖が溶けてバターと混ざる。こってりとしたバターの香り。砂糖の甘み。だんだんと砂糖が茶色く焦げてくる。ブクブクと泡を立てながら、茶色が濃くなる。砂糖がキャラメルになったかどうか、かき混ぜながら、見極める。
ビビりなので、いつもちょっと焦がしが足りないけど、まあいい。
火を止め、リンゴを並べる。
しばらくリンゴに火を通す。
それから、生地を流し込んで、蓋をして焼く。リビング中にリンゴ果汁の香りがただよう。
スポーツジムに行っていた夫が、「めっちゃ、いい匂いするな」と言いながら帰ってきた。
生地がぷっくり膨らんで、乾いてきたら出来上がり。
フライパンにお皿を載せて、ひっくり返すと完成。
焦げた。
真ん中の真っ黒になったところは、そっと取り除いた。
洗い物やキッチンの掃除をしていたら、焼きすぎたらしい。
いや、流れ出した心のマグマが、リンゴを焦がしてしまったのかもしれない。
完成品を写真に撮るころにはもう、昼間のモヤモヤはどうでもよくなっていた。
粗熱が取れたら、ラップをかけて冷蔵庫へ。明日のお弁当のデザートに。
「嫌なことがあると深夜でも掃除をします」とか、「靴をピカピカに磨きます」という人を見かけるが、こういうことか。
何かに没頭することで、もやもやを一度忘れてみる。つまり、「シロクマ」を考えないように別のことを考える。
そして、結果を出して、その達成感で気分が爽快になる。
いつの間にか、もやもやが消えて、心が晴れる。
誰に迷惑もかけないし、自分も落ち込まずにすむ。そして、おいしいごはんができたり、部屋や靴が綺麗になるという、一石二鳥。
難しいのは、文章を書くこと。
これは、あくまで私の文章のことだけれど、確かに、自分の今の思いの丈を、思い切り書くことで、すっきりすることはある。だけど、もやもやの渦中にいるときに書いた文章は、毒のかたまり。公開しないほうがいい。後で読み返して後悔して、何度下書きに戻しただろう。
どうやら、私には向いてなさそう。
考えてみれば、もやもやしているのは、全部自分の心の許容量の世間さのせい。虚栄心や驕り、おかしなプライドのせいで、周りの誰のせいでもない。私が、もっと心を開いて、優しく接するべきなのだ。
ああ、言わなくてよかった。
私のモヤモヤは焼いて食べてしまうのが、よさそうだ。
今日のランチが楽しみだ。