洋服のサブスクが続かない理由
「解約しますか?」
アプリに表示される文字を数秒見つめて、「はい」をタップする。
数ヶ月前から、コーディネートされた洋服をレンタルする「洋服のサブスク」をやっていたのだけれど、今月で解約した。
実は、去年の夏にも同じサービスを数ヶ月利用して、やめたことがあり、今回が2回目の解約である。
自分の好みの、自分に似合う洋服をきちんと選んで送ってくれるし、利用料もそう高くない。気に入って買い取った洋服も数枚ある。
なのに、しばらくすると、「やめようかなあ」という気持ちがわき上がってくるのだ。なぜだ。
欲しいと似合うが両立する洋服をさがして、休日をまるまる溶かしてしまうこともなく、買って帰って着てみてがっかり、タンスの肥やしとなることもないのに。
それなのに、「もういいかなー」と思うときが、必ず来るのだ。
私は、何が一体不満なのだろうか。
今日、その答えの1つをネットの記事から見つけた。
ビジネス系のネット記事なのだが、その中に「お客さんの文脈」という言葉を見つけた。AIは文脈が読めないという意味で使われている。
それだ。
その洋服レンタルサービスが洋服をコーディネートする方法は、次のとおり。
まず、何万点もある洋服の中から、AIが私が好きそうな、私に似合いそうな洋服を選び出す。その中からプロのスタイリストがコーディネートしたものを送ってくれているらしい。
noteの編集部おすすめ記事の選択なんかも、この方法をとっていたように記憶している。
多分、一番効率のいい方法なのだろう。
私は、時間のあるときに、アプリに表示される洋服の画像から、好みのデザインやカラーの洋服を選んで「♥」ボタンを押していく。カットソー、セーター、シャツ、パンツ、スカート、ワンピース。モードを意識した斬新なものから、ベーシックなものまで、画面をスクロールさせると、次々に洋服の画像が出てくるので、それを眺めて♥を押していくのだ。
洋服って、トップスとボトムスとワンピースの組み合わせしかないのに、よくもまあ、これほど膨大なデザインが作れるものよと、人間のアイデア力に驚かされる。
それはさておき。
そうやって蓄積された私好みの洋服のデータと、これまで借りた洋服の感想、それから仕事着なのかプライベートなのかといった「洋服を着る理由」が組み合わされて、次に貸し出される洋服が選ばれていく。
それはとても的確で効率的な作業だ。
実際、自分が洋服を買うときにも、店に並ぶ洋服の中から自分好みのデザインや色を探し出し、手持ちの洋服との組み合わせや用途を考えて洋服を選んでいる。
一見、AIがやっていることも、私が頭の中でやっていることも同じだ。
でも、AIには「文脈」がなかった。
洋服レンタルサービスは、AIが膨大な洋服データの中から、私の「好き」な洋服の傾向を読み解き、選び出し、プロがコーディネートする。とても「いいもの」のはずだ。
だけど、そこに、それを着る私の「ストーリー」が考慮されていない。
もちろん、次回のコーディネートを依頼する際に「仕事着です」とか「エアコンが効いてるオフィスなので、カーディガンが似合うものを」とか、「今回はお出かけ着です」とか、リクエストはする。
だけど、誰と会うのか、どんな仕事なのか、どういう人と一緒に働いているのか、家族構成はどうなのか、口うるさい家族がいるとか、そういう具体的なその人、一人一人のストーリーは考慮されない。
だけど、そこが一番大事なのだ。
実際に、スタイリストに一緒に同行して洋服を選んでもらうサービスなら、そういう話もできるかもしれないが、ネットの向こうの、物言わぬAIと顔も見せないスタイリストに伝えるすべはない。
指名料を支払えば、気に入ったスタイリストを指名することもできるが、見ればいつも「満席」と記載されていて、お願いする余地はなさそうだ。
一見、非の打ち所のないコーディネートなのだけど、どこか物足りないというか、しっくりこないと思うのは、そういう「私の」ストーリーを考慮できない点であるのだと気づいた。
ぴりつくほどお堅い仕事をする日はリボンの付いた洋服は着たくないし、和気藹々とデスクワークにいそしむ日はかわいい服が着たい。オンの服ばかり借りていたら、オフの服が足りなかったり、今日はがっつりご飯を食べたいから、ゆったりした服がいいと思ったり。そういう、その日その日の細かなストーリーに、借りた洋服は対応してくれないのだ。
「解約理由を選んでください」
解約手続きの途中で、解約理由のアンケートがあったが、こんな長文書くわけにもいかず、仕方がないので「着たい洋服が来ない」というところにチェックを入れた。
間違ってはいないが、ちょっと申し訳ない気がしている。