とまれ、しゃっくり
サザエさんがうらやましい。
ピーナッツを投げて口でキャッチして、のどに詰まりそうになって、「んが、んん!」となっても、次の瞬間「うふふふ」って笑える。
いいよなあ……「しゃっくり」が出なくて。
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「腰痛持ち」みたいに、「しゃっくり持ち」という言葉があるなら、間違いなく私のことだ。
多分、10日に1回は、しゃっくりが出る、又はしゃっくり未遂事件が起きる。
サザエさんみたいに、「んが、んん」ってなったら、絶対しゃっくりが出る。
大体、食事時。それも、すごく空腹の時。
食べ物を飲み込んだ瞬間、何かがのどに引っかかったような感覚がくる。「やばい!」と思っても、もうあとのの祭り、胸の真ん中あたりの違和感とともに「ひっく、ひっく」と、しゃっくりが出る。
しゃっくりって、なんであんなに気持ち悪いんだろう。
数秒おきにやって来る、横隔膜の痙攣。
ひっく、ひっくの音は裏声みたいに高音で、部屋中に響き渡る。
「あ、しゃっく、ひっく、りが、ひっく、でた。どう、ひっく、しよ、ひっく」
全く、会話にならない。
職場でのランチ時になったら、最悪だ。
オフィスに響き渡る、ひっく、ひっくの高音。
同僚はみんな優しいので、気づいていながら、気づかないふりをしてくれるが、それが余計に己をみじめにさせる。生殺しだ。いっそ一緒に笑ってほしい。
そんなときに限って、私宛ての電話が鳴る。
「はい、おで、ひっく、んわ、ひっく、かわ、ひっ、かわ、か、かわりました、ひっく」
電話の向こうの相手が、笑いをこらえているのが分かる。
こういう日は、めざましテレビの「占いカウントダウン」でてんびん座が最下位だったに違いない。(見てないから知らんけど)
しゃっくり癖も長くなると、大体、どんな食べ物が危険なのか分かるようになってきた。
ワースト3、どん。
3位 弁当の唐揚げ
2位 焼き芋
そして……
1位 ドーナツ
その中でも、ミ〇タードーナツのオールドファッションが最強。
なぜ、1位がドーナツかというと、ふだんカロリーを気にして、敬遠しがちだけど、好物なのがドーナツ。買って帰ったり、もらったりしたら、早く食べたくてうずうずしちゃう。
「いただきます」と同時に、ドーナツにかぶりつく。
ドーナツって揚げてあるからか、思った以上に水っけがなく、パサパサしている。そして、小麦粉と砂糖でできた生地がギュッと詰まっていて、かなりの密度。
パサパサで、ギュッを一気食い。
はい、しゃっくりの世界へようこそ。
唐揚げにせよ、焼き芋にせよ、好物だから、パサパサでギュッとしているのに、一気食いしちゃうから、しゃっくりが出るのだ。
分かっているのに、そのクセが直らない。
お茶や水やコーヒーなんかの水分と一緒に、ゆっくり優雅に食べればいいものを、それができない。「待て」ができる犬のほうが賢い。
今夜は、この秋はじめてのおでんだった。
すじ肉を食べたら、思った以上に固くて、無理してぐっと飲み込んだら、肉がのどにひっかかった気がした。案の定、しゃっくりが出た。
日本酒で流しても、水を飲んでも、直らない。
「息、止めて!」
娘の指示でやってみるが、治らない。
「袋を口に当てて、呼吸すると治るよ」
夫が「絶対治るから」とドヤ顔するので、ビニール袋で鼻と口を覆って、すーはー息をしてみたが、一向に治らない(シンナーを吸う昔の不良みたいなスタイル)
せっかくのおでんと日本酒だったのに、しゃっくりが気になって、ちっとも味わえなかった。悔しい。
食べ終わって、お風呂に入り、湯舟に使った瞬間、突然しゃっくりが止まった。しゃっくりの終焉はいつも突然だ。
しゃっくりは消えた後も、私の胸を痛める。
(痙攣が長時間だったので、筋肉痛なだけ)
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