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「書くこと」千本ノック
書くこと。
小学校の作文が楽しかったことなど一度もない。
まして、読書感想文やら、税の作文やら、夏休みの宿題はいつも苦行だった。
小学生の頃はまだいい。そんなに大差がないように思えた。
しかし、中学、高校と成長すればするほど、どんどんすごい奴がでてきて、もう完全に大人のような意見を書く子や、小説を書く子がでてきて、ますます「これは私の分野じゃない感」。自分のいる位置から、どんどん遠ざかっていくのみだった。
大学受験だって、絶対小論文なんて科目のない道を選んだ。
読書は好きだった。
中学・高校はコバルト文庫にはまった。
氷室冴子と新井素子は、私の神だった。
さくらももこのエッセイは、何度読んでも抱腹絶倒。
でも、本当の読書家と呼ばれるような人間でもなかった。
中には図書館にある本のほとんどを読んだとか、毎回たくさん本を読んだ人という表彰を受ける子もいた。けれど、それも私の「分野じゃない感」。
好きなものを好きなようなに、誰に何をいわれるでもなく、気分でやりたい。
それが私のスタイルだった。
中学の頃に当時出始めたワープロを買ってもらった。
ワープロを使って、何か書きたいと思った。けど書くことがなかった。
高校生の頃に、好きな子ができた。彼とつきあった。
でもケンカばっかりだった。お互いに自分の気持ちをうまく伝えられないという欠点があった。友人にも恋の悩みを相談した。けど、しゃべることでは、うまく言葉が伝わらなかった。だから、自分の気持ちをじっくり考え、手紙にしようと思った。もしかしたら、それが私が「書きたい」と思った、はじめだったのかもしれない。
でも、書けば書くほど、本当に伝えたいことが分からなくなった。玉ねぎのようにむいてもむいても、本当の自分、本音が見つからなかった。
それでもその時は夢中になって書いていた。
多分書いていた内容は、今考えればかなり「痛い」んだろうなと確信できる。
そして、書くことは続く。
それはインターネットのおかげだ。
私が大学生だった1900年代後半、日本の一部で、電話回線を使って、日本中の人とコミュニケーションする「パソコン通信」が流行っているときいた。そしてこれからは「インターネット」の時代だと。インターネットがあれば世界中のホームページを見られる、メールが瞬時に送れるらしい。
なんかかっこいいやん、おもしろそう、自分もやってみたいと思ったのだ。
当時、インターネットにアクセスする人たちは、ホームページを作っていた。それは、まるで、雑誌の「文通相手になってください」の告知欄のようだった。メールアドレス、住所、電話番号まで公表していた。そして、その多くが自分を知ってもらうために、自分の日常を日記のように綴ったり、趣味について書いていた。今でいう、フェイスブックのような、ブログが合わさったようなものだった。
そこで、私も、自分を知ってもらうため、自分の好きなものや、自分が思っていること、過去に面白かったことを書くことにした。文章の苦手だった自分が、こんなことやっても、伝わるのだろうかという不安より、今日何人が見に来てくれるだろうというワクワクの方が多かった。
あるとき、小学生のとき、自分の恥ずかしい勘違いが学校全体に影響を与えて、結果大成功になったということ書いた。その勘違いは、実は誰にも言ってなかった。というか、今更「私の勘違いでした」なんて言えなかった。
「あの話、面白かったって言ってたよ」
友達が私のホームページに書いた記事を読んで面白いって言ってたと、別の友達から聞いた。
私の書いたものを面白いと言ってくれた友人は、普段、人の行動を褒めたりしない人だった。その彼が「面白かった」って言った!
それで、書くことにちょっと自信が持てたのだ。
けど、いつしか、ホームページを更新するより、知り合った人とメールのやりとりしたり、チャットで話す方が楽しくなって、やめてしまった。
それから、20年が過ぎた。
また書きたいなと思うけれど、きっかけもなく、そんな時間もなく日々が過ぎていった。
そして、人生のどん底で、書くことに再会した。
仕事でボロボロになって、逃げたくてたまらなくていたとき、目に止まった「ライティング講座」
つい、申し込みしてしまった。
それから毎週の締め切りをこなし、4ヶ月、野球のノックのようにひたすら書いては、提出する。
20年前のような遊びじゃない、本気で書いた。
書いて書いて書いて書いて、書けなくなって、それでも書く。
あの友達の「面白かった」を胸に、書いたものの評価の「面白かったです」のコメントを目の前のニンジンにして。
そしてすっかり「書く」の泥沼にはまった私。
今となっては、日々がネタ探しの生活だ。書かないと、精神的に不安定になるまでになってしまった。ここまできたら中毒だ。
もっと上手くなりたい。もっと面白いといってもらいたい。
欲張りな私の欲望に、ライティングの先生は言う。
「上手くなりたいなら、面白いものが書きたいなら、書く量を増やしなさい」
ならばやろう。「書くこと」千本ノック。
書いて書いて書いてみようか。
さて、どうなる、私。
とにかく、これが1000分の1本目。
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