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『コブラ会』シーズン4のイッキ見 米国の分断からの和解の行方は

1年前とちょうど同じく、また、Netflixで新たに配信された『コブラ会』のシーズン4を一気見してしまった。1年前に書いたPOSTがこれ:


今度も、とても楽しめた。

さすが、世界で一番大きな視聴者層を抱えて、一番大きな資本が動いて、とてもクリエイティブな人たちがしのぎを削ってるアメリカのエンタメ業界だけあって、娯楽青春スポ根ドラマなのに、とても奥が深い。まあ、スポ根ドラマとしてだけでも楽しめますが。

我が愛すべき、The Divided States of America, formerly known as the United States of America (と誰かが書いていたのを記憶)、そこで、トランプ旋風が浮き彫りにした社会の分断からの和解を模索するドラマが、前シーズン同様に、空手というかほとんど自由な格闘技のような戦いの青春群像劇を通じて描かれている。社会と同時進行しているようなドラマ展開。

シーズン4にはいって、若干マンネリはあるが、なんと今度はもと悪役のテリー・シルバーの40年後を投入してきた。よく考えたなあ。勧善懲悪もののオリジナル映画のカラテキッズで、長髪をオールバック・ポニーテールにして背が高い憎らしい悪者の今を同じ役者が演じている。

このドラマの試みが面白いのは、もともと勧善懲悪の単純なスポ根ドラマを、悪役に人間としての深みをもたせて、その後の人生を設定してそこからのある種の魂の救済ストーリーを描いていること。

とはいっても、はい改心していいヤツになりました、ではなくて、悪かったことを引きずって生きてきて、悪かった理由も描かれていて、また、どっちかというと悪いほう側で波乱を起こす。でもちゃんとなぜそうなのかが描かれている。

もともと薄っぺらな悪役の役者だったので決して演技派ではないんだが、親分のクリースやこのシルバーの役者に不思議な存在感がある。フラッシュバックで昔の映画の映像が流れるので、それで40年という年月の流れをしっかり感じさせてくれる。これは贅沢な演出で、けっしてメイクで老けたり、似た顔の子役をつかったりではできない、本人そのものが40年後に演じているのがすごい。

ドラマは、ネタバレになるので詳細避けるが、もはや、ベビーブーマーでアラ還のセンセたちが和解していくという話ではなく、彼らが指導する若い世代の間のいがみ合いと和解のドラマ展開になってきている。敵対するグループの両方を経験したり、そこでそれぞれの流派を学ぶことでそれぞれの考え方を体験した上で、子供の世代がどう自分で判断していくかというようなドラマうになってきている。親の世代は自分の過去を反省しながら、それを見守っていく。悪役側のセンセも、実は子供思いであるというのがいい。

まあ、日本人としては、こういう米国社会の分断からの和解のドラマが、日本のカラテを題材にしてくれているのは、なんとも嬉しい。

和解は決して簡単ではなく、互いにいがみ合い取っ組み合いの喧嘩をしながらだんだんわかりあっていくということで格闘技がとてもビジュアル的にいいということなんだろうけど、一応、戦う相手に対しても礼を重んじる東洋武術のドラマとして、ミスター・ミヤギという日系アメリカ人がスターウォーズでいったらヨーダみたいに人生の真義を説くような存在でいるのが、なんとも誇らしい。

それとさすが大資本、ディテールにも手を抜いてなくて、僕が個人的に面白かったと思ったのは、ベトナム戦争ベテランの悪役2人がビールをかけて子供たちを戦わせるところで、でてくるビールがベトナムの333(ベトナム語でバーバーバー)を「名前がちょっと変わったがあのビールだよ」とでてくる。調べたら、たしかに昔は33、バーバー、という名前だったらしい。

おやじとしては、主人公のダニエルが好きな80年代メローロック、ジョンが好きなハードロック、涙がでるくらい懐かしい。

ベビーブーマー世代も、その子供世代も、深読みすれば真面目にアメリカ社会の分断を憂える人にも楽しめる、良質のエンタメ作品だと思う。

この年末年始、アメリカの「反知性主義」についての、森本あんり『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』新潮社〈新潮選書〉 という本をさっと読んだが、こちらもなるほど、目からウロコ。

この本のほうはコブラ会ほどさらっとまとめられないが、要は、ヨーロッパのように王政や古くからあるカトリック教会のような権威に対する批判としてのプロテスタントや知識人が存在しているのではなくて、新しい国アメリカでは、プロテスタント・知識層がむしろ権威・権力側なので、トランプが初めてではなくて過去にも、行き過ぎて権力を濫用する知識層に対する大衆的な反動が起きていると。神の前の平等からの、知的な特権階級に対する大衆の反乱。

コブラ会にもいろいろと存在意義があるように、トランプ的な反知性主義にもちゃんと理由があるんだという気づき。なかなか、奥が深い。

へんな話だが、米国社会の分断の深い理由について、TVシリーズ・コブラ会と、宗教学者のとてもおもしろい単行本から、学ばさせてもらった年末年始であった。

コブラ会、まだ続くな、シーズン5へ。そして米国政治も今年秋には中間選挙へ。■



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