コブラ会=共和党?
知り合いのおやじが面白くてハマったというので見始めたら、こちらもハマって、週末に、30分ものの1シーズン10回x2シーズンを一気見してしまった。
ハマった理由は明白で、元になった80年代の映画Karate Kid(ベスト・キッド)が良かったからとか、その当時の主人公たちを演じてた同じ役者がその30数年後の同じ役を演じていていいとか、そこらへんなんだが(劇中かかる80年代のメロディックなロック曲も懐かしい)、このドラマ・シリーズ、あなどれない、現代アメリカ政治の奥深いところを描いているようで、いろいろ考えさせられる。
今年もあと少しなので、今年観た最高のドラマになりそうな気もする。
この「ハイスクール青春空手ドラマ」を最高だというのは恥ずかしいんだが(もっと難解な欧州の芸術作品とかをかっこよく挙げたいのだが)、アメリカ社会の分断、そしてその和解への希望、みたいな現実を、娯楽作品のフォーマットの制約の中で、おそろしくうまく織り込んでいる。
前もどこかで書いたが、素晴らしい芸術作品がそうである所以は、それが現実の問題や人生の苦悩を描き出して、そしてその問題からの解決、あるいは、その苦悩からの救済のヒントを与えてくれるから。
これは、80年代を知っているおばさんおじさんには「懐かしいノスタルジアのドラマ」、知らない若い世代には「ハイスクール青春ドラマ」の体裁をとってるが、トランプ・アメリカを理解して、社会の和解への可能性について考えさせてくれる、制作側の深い企みがあるように感じる(考えすぎかな?)。
ストーリーはぜひ見てください、なんですが、このNoteのまとめがよかったのでリンクを掲載。
85年の映画では、貧しいイタリア系の家庭の主人公が、学校で白人系の悪ガキどもにいじめられているのを、これまた南カリフォルニア社会ではマイノリティの日系人の空手マスターMrミヤギが空手を教えて、それでその悪ガキたちが所属する元海兵隊かなんかの強面の白人先生が主催する道場コブラ会と対決して勝つという勧善懲悪ストーリー。
映画は大ヒットして、80年代に映画を観た観客は、たぶん当時の大多数のミドルクラスの白人若者も、ポリティカリー・コレクトに、いじめられるマイノリティの奮闘に感情移入して応援して、ダニエルさんが金持ち白人いじめっ子のジョニーを打ち倒すのをすかっとした気持ちでみたはず。
今回は、その敗北した白人若者の30数年後の50代の負け犬的になってしまったやつが主人公のジョニー。逆に映画でのイタリア系の主人公ダニエルはその後、ビジネスで成功して地元の名士みたいになっていると描かれている。
これって、ジョニーの人生は、トランプ支持層となった地方のミドルクラス白人層の経済的凋落をなぞっていたり、ダニエルの成功は、労働者の政党だった民主党が、ビル・クリントン以降、左派というより急速にビジネス寄りになって中道になっていったというのを彷彿させる。ダニエルの母親がヒラリー・クリントンに見えてきたりする。
ジョニーは、子供の頃は豪邸に住む、いけ好かない金持ちボンボンだったのが、人生につまづいて、落ちぶれて、その後、修理屋や肉体労働の仕事を何度も首になったり、離婚して、場末のアパートに一人で住んで毎晩飲んだくれていると描かれる。このドラマは、そんな状態からの「再生」のストーリーでもある。Make America Great Againみたいな。単なる悪役だったジョニーが、実はステップファーザーにいびられて金持ちだが不幸な家庭で育って、コブラ会に入って攻撃することで人生の生き方を学んだというようなディテールが新たに添えられている。それでそのコブラ会の教えで人生がだめになったと。
道場再開とか、そんな「再生」のプロセスが描かれるのがシーズン1。主人公ジョニーの俳優は、ブロンドでやはりトランプを彷彿させる風貌。みているこちらは、ジョニーを主人公として、苦労したんだな、いいところもあるやつじゃないかとだんだん感情移入していくが、やはり本質はダメな奴。ひどいことをしてきたし、どうしようもないやつではある。そんなところもトランプを彷彿させる。
ジョニーは、パソコンをさわったことなかったり、Facebookを知らなかったり、飲むのはいつもCoorsビールだけ、野菜は嫌いで肉ばかり食うといった調子だが、弟子となるヒスパニックの高校生と二人三脚で道場再生をしていくのは、微笑ましい。人間の「再生」のストーリーはいつも観ていていい気持ちになる。弟子はてっきりメキシコ系かとおもったら、エクアドル人だというのがわかる。
そしてシーズン1の終わりで示唆されて2で暴れるのが、コブラ会創始者の元海兵隊のじいさん。俳優まだご健在でしたか!いかにも顔が悪役の俳優というのはいるもので、このじいさんがそれ。俳優ももう70代か。そういう悪役が、人生のペーソスを感じさせる渋い役をやるとえらく味がでていいもんだが、この俳優はくせもの。まだシーズン2終了時では、彼も再生するストーリーなのか、ワルはワルで終わるのかまだわからない。彼に対応するMrミヤギ役のパット・モリタは残念ながら既に他界している。もしご存命だったら、出演して別の展開があったかもしれない。この俳優を35年前の映画と同じとしているのが、映画を知っているファンにはたまらないところ。ワックス・イン、ワックス・アウトなんていうくだりも、懐かしくて涙が出た。
それで、みていると、いかにもコブラ会=共和党、みやぎ道場=民主党みたいな比喩がみえみえなんだが、それらライバルはいがみ合い、戦い、高校を2分する分断を引き起こす。ジョニーが共和党を変えようとするトランプだとしたら、この創始者のじいさんは共和党の重鎮政治家たちか。あるいはその逆か?
まあ、難解な芸術作品だと、かなり個性のある作家が独自の世界観で、そもそも難解な現実を描いていくので、みているこっちが心してつきあって、その難解さのむこうの面白さを感じないといけない(と思う)のだが、これはハリウッド娯楽ドラマ、いかにも安易な役設定や展開は多々あって、そういうのが気になる人には安っぽくみえてしまうかもしれないが、とても考えられたストーリーで良くできていると思う。たぶん、本当にエンタメのプロでかつ芸術性もある作家たちが何人かで議論しながら役をつくって配置させて、ストーリーを進めていっている感じ。詰め込みすぎのところもあるが、ちゃんと登場させて伏線をはったら、その後にうまくその伏線を回収させている。
シーズン2は、2つのグループの激しい抗争で終わり、主人公の弟子のエクアドル人は危篤、その責任が自分にあると主人公ジョニーは再び自暴自棄になり、コブラ会設立のじいさんが不気味に生徒たちに攻撃的な指導を続けるといったところで終わる。そしてシーズン3にむけて、期待を高めてくれるある携帯電話のメッセージを写して終わっている(これ、うまいなあ)。
分断からの和解が何度も何度も試みられるのだが、何度も何度も喧嘩になって、高校生達は殴り合う。個人的には、シーズン2の終わりの方で、エクアドル人のおばさんがとりもって親たちがサルサで踊って、ちょっとジョニーとダニエルが握手するというのがよかった。今回の選挙でも、ラテン系は微妙な立ち位置だった。カルフォルニアやテキサスではラテン系は民主党支持、フロリダとかだと亡命キューバ人やベネズエラ人たちは、共和党・トランプ支持。さあ、争いは忘れて、人生を謳歌しよう、というようなラテン気質も、いくつかあるアメリカの分断の和解の道筋のひとつでは。
米国大統領選ももう決着という感じだが、トランプ敗退、おそらく、共和党は事前予想のブルースウィープに反して上院を確保になりそうな情勢。このドラマ、いつ撮影されたかしらないが(たぶんシーズン2は2019年?)、なぜか、おそろしく現代アメリカ政治と同時進行しているような気がしてしまう。シーズン2の最終回と2020年大統領選挙結果。さてシーズン3の展開は?バイデン大統領誕生の船出は?トランプ現象の行方は?それとも、ハイスクール青春空手ドラマから米国政治動向を読み取るなんて馬鹿げているか。。。
(タイトル絵はNoteクリエーターのものから、空手で検索してでてきた、いけてる絵を拝借)
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