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ジュリエット釣り【毎週ショートショートnote】工作員ヤンの潜伏記 15 (完結回)
和歌山駅前
過激な右派政党日本ダイエット党首が演説を始めた
そこへ後ろから、傘に仕込んだ散弾銃を持った男が忍び寄る
ヤンへの指令は、その男の工作を邪魔するすべての動きを封じ込め、その男を援護すること
だが、ヤンの、国への復讐がここで始まる
長年忠誠心ある工作員と思わせ
重要な場面でそれを大きく裏切る
家族の、民族の、怨みを晴らす
その為には命など惜しくはない
男が傘を構えた瞬間、ヤンは、その前に飛び出す
発射された銃弾は、ヤンの肋骨を貫通し心臓を切り裂く
別の弾は頭蓋骨上部を砕いて脳漿を飛び散らす
即死だった
党首は、ヤンの脳漿と大量の血を被ったが無傷
県警SPにより安全な所へと退避
死の瞬間、ヤンの脳裏には、人生のフラッシュバックが流れる
そこには何故か、故郷のニャ族の村での家族との日々、孤児院での生活、工作員としての訓練の日々の映像は無い
流れたのは、日本での留学生としての2年間の日々、そして、エンドロールのように流れたのは、その日々を彩った一見脈絡のない言葉の羅列だった
カミングアウトコンビニ
サラダバス
ふりかえるとよみがえる
ビール傘
チャリンチャリン太郎
不思議ドライバー
初めての鬼
タイムスリップコップ
株式会社のおと
感想文部
違法の健康法
二重人格ごっこ
日本ダイエット
しゃべる画像
日本での短かった日々の走馬灯を見ながら、ヤンは思う
自分ノ人生
周リカラノ無茶ブリ
ドウニカ生キテキタ
デモ、楽シ事モアッタ
素敵ナ人ニモ、会エタ
今世デ
生ヲ受ケラレテ
アリガトゴザマシタ
検視官が、死体のポケットから、丸められた紙切れを見つける
そこには
ジュリエット釣り
と書きなぐってあった
それは、警察も事件記者にも、誰にも分からなかった事件の謎
ヤンは工作員だったのか?
ジュリエット釣りとは何かの暗号か?
それを知るのはこれを読む我々だけ
それは、主人公の運命を翻弄してきた「お題」
その理不尽で強烈な呪縛を、ヤンは自らの死をもって拒絶し、最期だけは握りつぶしたのであった
*
これで工作員ヤンの話は終わる
奇妙すぎる話、無茶な展開
しかし、どうだろうか
我々の人生だって同じ
いつも無理難題を押し付けられ
それをやっつけどうにかこなして
今生の日々を重ね、いずれ死んでいく
(連載?完結)
一応、たらはかにさんのショートショート企画に参加ですが、最終回、大幅に字数オーバー、規定の410字の倍になってしまいました。
7月に「カミングアウトコンビニ」というシュールなテーマでテキトーに登場させた工作員の留学生ヤンくんが何故か気になって勝手に連作にして、毎週の無茶ブリお題に翻弄されてきましたが、ヤンくん、頑張りました。
個人的に、日本でがんばる健気な外国人留学生という奴らは大好きなので、ヤンはそんなイメージでした。工作員だったんですがね。では、また。
ヤンとエリサはこちら(↓)の居酒屋ストーリーにも登場させて、死後?の後日談も今後展開させますので顧うご笑読: