映画での感情移入 ナイトシャマランの"Trap" 、Netflix『地面師たち』
いつも思う。
映画を観ていて、どの登場人物に自分の感情移入していくか。
まず、「感情移入」とは、そもそもどういうことかについてググってみた。
たぶん、自分が一番映画を楽しんでる時って、主人公の境遇が自分に似ていたりして共感して、その主人公に災難が襲い掛かり大変なことになるも、最後には主人公がその災難を克服してハッピーエンドになるというような時なのかなと思う。
週末、あのシックスセンスの監督、ナイト・シャマランの新作の "Trap"というのを劇場で観てきた。
いま、ちょっとマレーシアにいるので、なんとロードショーが22リンギットだから700円くらい。円安の昨今でも、まだ安い国はさがせばあるもんです。映画って、どういうビジネスモデルなのか、もはや日本より物価が高い香港とかシンガポールでも平日とか1000円もしないで観れたりする。ダイナミック・プライシングで需要があるときに値段を高くしているのか、謎。
話がそれたが、シャマラン監督のこの新作、なかなか斬新な設定、ハラハラと驚きが多かったが、結論、ちょっと微妙だった。
ネタバレを避けるために細かい内容は伏せるが、娘思いの人当たりのいい中年のおっさんが主人公的にでてくるので、ごく自然に僕もその主人公に「感情移入」して不思議な話の展開を追っていこうとしたのだが、あれ?なんかおかしい。
10分か15分くらいすると、この主人公がじつは極悪サイコパスだというのがわかってくる。おっと、感情移入対象をまちがったと思うが、この主人公が警察との情報戦で、多数の警官の警備を一人で翻弄していくことになると、そのプロセスがよくできたクライム・ノベルみたいにわくわく感がある。いかにこのワルがFBIプロファイラーが指揮する trap をかいくぐっていくのかが結構スリリングで、ワルでもいいから知力で多勢の警官たちを煙に巻いてくれと思うようになってしまう。おかしいなと思いながらも連続殺人犯に感情移入してしまう。
そして、ストーリーは予期せぬ結末へ。
なんともよくできたシナリオで、役者もそれなりにいい演技をして、好感がもてる主人公だが実はサイコというのをよく演じていたが、なんか最後、しっくりこなかった。
たぶん、その理由は、自分が相手を間違って感情移入してしまったということか。といっても正義の味方のFBIプロファイラーのおばはんはそれほど話にでてこないし、ほかに感情移入できる先がいなくて、殺人犯じゃないとしたら他にいなくて、野次馬的に猟奇事件を傍観する感じか。
いい映画でしたが、ちょっと不完全燃焼で、評価は星10中5といった感じ。
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「地面師たち」をNetflixで7話一気見してしまう。いやーおもしろかった。
不動産詐欺の騙しテクニックと騙される側の事情がよく描かれていて、その詐欺という一種の知的ゲームを傍観するのでハラハラだったが、さらにバイオレンスありお色気あり、よくできたクライム映画。
主人公は地面師たち、とくに豊川悦司演ずる司令塔の謎の男ハリソンなんだが、このハリソンはかなりやばい奴として最初から描かれているので、感情移入先は綾野剛演ずるそのハリソンの弟子の地面師となる。そういう風に脚本が組み立ててあるのかな。彼が危機を多々こなして一人前の地面師になっていくというビルドゥングスロマンかなとみていたが、ちょっとひねってあって復讐劇やら仲間の裏切りやら、いろいろ盛沢山の展開がある。
司法書士くずれのピエール瀧とか、替え玉調達担当の小池栄子とか、とてもいい持ち味で演技していて、犯罪集団ながらもオーシャンズ11とかAチームみたいなプロ集団の仕事のワクワク感とかかっこよさみたいなものもあったが、所詮、詐欺集団、見ていて、おいおい、それだけのスキルがあるならちゃんとした不動産取引決めて報酬もらえるだろとか思ってしまう。英語で con artist という言葉があるけれど、詐欺もあそこまで凝るとアートかと笑ってしまう。
話を感情移入に戻すと、この映画はすっきりできました。ちょっと一瞬、定年間近のリリーフランキー演ずる刑事に共感してしまったが、綾野剛がいかにしてきわどい場面を切り抜けるかでいっしょにハラハラして、温厚そうな外見の中に奥深く巣くう闇みたいのがだんだんわかってくると、これがその闇から救われるという話じゃないかとも思ってくる。
そしてエンディング・クライマックスへ。
よかったですね、星10中8。今年前半の最強の邦画をみてしまったという感想。
ナイト・シャマラン監督の映画好きなんですが、今回ばかりはこの「地面師たち」の勝ちでした。
以上、独断の映画感想でした。
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(タイトル画は、ギャラリーで映画館で検索してでてきたものから一番いい感じのを拝借)