エラ・フィッツジェラルド
エラ・フィッツジェラルドは一見高校の音楽の先生みたいで、まじめで私はお酒なんて飲みませんという感じなんだが、歌い出すと結構ブルージーな感じを滲み出してくる。たとえば、この演奏。
Angel Eyes というこのjazzのスタンダード曲は、ハードボイルド映画のサウンドトラックみたいにこてこてノワールな感じ。A部分はマイナーというよりブルーノートスケール一発みたいな気だるい感じ。バラードなので、ゆっくりゆっくり進む。
男が、飲みすぎて酔いつぶれてカウンターにつっぷして寝ているような光景が浮かんでくる。すでに時計は深夜2時とかを過ぎている。
やっと曲がサビに来ると、酔い潰れていた男が突然はたと起きて、「ここは誰、私はどこ?」となるのだが、それを見たバーテンが、目覚ましにこれでもどうと注いでくれる一杯が、半音上がったように聴こえるが実は半音下に転調したサビ後半。
でもその目覚ましのアルコールを飲むと、また再びブルースがじわじわと誰もいなくなったバーのそこらじゅうから湧き出てきて、男はまたカウンターに突っ伏して、曲はAメロに逆戻り。
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しかし題名の Angel Eyes「天使のような目」というのは意味不明。くらーいこの曲にふさわしくないタイトル。同名のABBAの曲 Angel Eyes は青春ドラマの主題歌みたいで悪くないが、このジャズ・スタンダードのほうは、暗く、ひたすらに気だるい。それとも、サビにはいって、はっと見えてくるのが、天使の目なのだろうか。
演奏している人がアル中か麻薬中毒者みたいに気だるく聴こえてしまうが、根が真面目なエラ・フィッツジェラルドのおかげでちょっと救いがある。そして、マイナーな曲の、メジャーなサビ。気だるい曲の、希望があるサビ。それも救い。砂漠のなかのオアシスのような救い。そういう展開を、サビで「ぱっと花が開くよう」と言った人がいたが、言い得て妙。酔いどれおやじでも、はたっ、と目が覚めるような瞬間。■
(タイトル写真は、Note Galleryからバーで検索して出てきた中から、一番けだるそうでデカダンでかっこいいのを拝借。こんなバーで飲んでみたい)
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