
グアダルーペ寺院バシリカ広場
自分のインスタを開けたら、突然、どこかの誰かが撮ったグアダルーペ寺院の動画が流れてきた。ドローン撮影か。
急に、40年前に訪れて以来行っていない、メキシコシティ北部にあるあの広場の光景が目の前に広まっていった。
という偶然にかこつけて、過去の自作創作からの広場のシーンの抜粋。メキシコを舞台とした、アセクシュアルとストーカーのアラサー群像劇、涙なくしては読み終えられない(のは筆者だけ?)、拙筆の感動の連載小説「私の味(サボール・ア・ミ)」の完結章より以下部分抜粋。全15章(長ぃ…)、アクセスだけみると章を追うごとに下がっていたので、最後までたどりつけてない人が多いとみて、敢えて、ネタバレ的な部分の最後のさわりをご紹介です。お暇な方はぜひどうぞ:
【連載小説】 「私の味(サボール・ア・ミ)」(15) 完結章より抜粋
下宿のセニョーラは、シンイチを見ると、とても驚いた顔をする。
胸の前で十字をきる。
そして、シンイチに強いハグをしてくる。小太りの初老のおばあさんの熊のハグのような強い抱擁。
セニョーラと電話したのは昨日。そう言えば、手紙を取りに来るのを伝えてなかった。
手紙を受け取る。セニョーラには礼を言って別れる。また強いハグがある。
「ケ・ディオス・テ・ベンディガ (神のご加護がありますように)」
セニョーラはそう言って、また胸の前で十字をきる。
カフェのようなものは近くになさそうだったので、バシリカ広場の方向に歩く。
広場の角の木の下のベンチが空いていたので腰をおろす。
封をあけて、手紙を読み始める。
(中略)
男女が強い恋愛感情を持って恋におちて、結婚して、子供が生まれる・・・
人生はそれだけではないんです。
そういう人生に馴染めない、割り切れない、私のような人間もいるということを、わかってください。
ア・セクシュアルでも、ア・ロマンティックでもラベルはなんでもいいんです。私は、恋愛や性愛が苦手なんです。私の人生にそれは無くてもいいのです。理由はわかりません。そう生まれてきたからとしか言えません。
(中略)
グアダルーペ寺院の本館に併設された離れの建物の3階の窓から、巡礼者でごった返す広い広場をじっとみているひとりの女性がいた。
「手紙を渡した」という電話を受けると、その女性は窓際に立って、じっと何かを待つように、広場の方を見ていた。
そしてカメラは、その女性の顔、そして更に、その瞳へとフォーカスしていく。
高解像度のカメラは、その女性の瞳の中の網膜に映された映像を、大きく拡大して映し出していく。
彼女が見つめる先、遠く離れた広い広場の角の木の下のベンチに、1人の男が座っている。男が一心不乱に手紙らしきものを読んでいる姿が、しっかりと彼女の瞳の中に映っている。
小雨が降り始める。
彼女は窓際に立って、ずっとそれを見つめている。
やがて、男は絵葉書売りの子供と言葉を交わしてから立ち上がる。手紙をまるめると屑籠にいれる。
そして、巡礼の流れに逆らいながら、広場から立ち去っていく。
彼女の瞳の奥の網膜は、しっかりと、その姿を最後まで捉えている。
(後略、エンディングへ)
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(タイトル画は、セピアで検索してでてきたのから一番いい感じのを拝借)
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