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【世界の車窓から】バルセロナからバスク地方への鉄道の旅

朝、バルセロナから長距離鉄道に乗ると、7時間くらいで終点のビルバオに到着できる。バルセロナをでた鉄道は、カルソッツの葱?の産地だというタラゴナまで地中海の海岸に沿って南下してから、内陸のサラゴサへと向かう。サラゴサでマドリッド行きと更に西に進む路線とに分岐する。

バルセロナで地中海に注ぐピレネーの南に東西に流れる長い川であるエブロ川に沿って上流まで遡っていく路線で、リオハの首都ログローニョあたりまではそれなりに川幅があるが、更にピレネー山脈の南側を北西へと向かうと、川はワイルドに蛇行したりして絶景で、遠くに雪をかぶったピレネーがみえて広大なぶどう畑が広がる風景が、エブロ川と並行して走る車窓からよくみえる。巡礼の道にあたるらしく、時折、サンチアゴのカミーノ巡礼の人がとぼとぼ歩くのがみえたが、11月はもう寒く、人はまばらだった。

そんな車窓からの景色を昨年ビデオで撮って、なぜか、RCサクセッションの忌野清志郎のバラードを載せた(スペインにまったく無関係だが、なんとなくスローな三拍子のこの曲が浮かんできたので)クリップをインスタにのせておいたのがこれ。


遅々として進まぬ、拙筆のバスクを舞台にした連載近未来SFでも、2054年には地球温暖化対策で飛行機より鉄道が主流になっていると、主人公がバルセロナから学会のあるバスク地方へ鉄道で行くことにしている(まだ先の展開か)。今のバスク自治州の首都はビトリアという都市なんですが、行ったことがないので、無理やりドノスティア(つまりサンセバスチャン)を架空の独立国の首都として、主人公リュイスはバルセロナからわざわざビルバオまで鉄道で行ってからさらにバスで2時間くらいかけてサンセバスチャンに行くことにしています。創作は自由勝手気ままでいいですね。以下、番宣的にその部分の抜粋です。

近未来SF連載小説「アフロディシアクム(惚れ薬)」1.カタルーニャ共和国のリュイスの事情(1) より抜粋

リュイスが、医者になる道は選ばず、そのまま大学の研究室に残る選択をしたのがその独立へ国中が沸き立っていた2040年代後半だった。

2020年代半ばに、日本の研究者チームが強い恋愛感情を持つと前頭葉のある領域にあるドーパミン神経が活発となるという研究を発表してから、その分野の研究が深められてきていた。

リュイスが興味をもった2040年代には既にこの分野でかなりの研究成果がでており、DNA治療で主流となったメッセンジャーRNAによって体内で免疫に特定のホルモンの分泌を促すワクチンを打つと、ドーパミン神経の感受性が高まるということもわかってきていた。

リュイスがそれを研究テーマに選ぶと、「なにそれ、惚れ薬でもつくるのか?」と同僚の研究者たちには馬鹿にされたが、リュイスはなかなか面白い研究分野だと思っていた。

リュイスはそれなりにハンサムな風貌なのだが、30歳後半にしてまだ独身。研究者にしては小綺麗なファッションもあいまり、周りには隠れゲイだから未婚なのかと思われていたが、実は若い頃に夢中になった女性がいた。それを引きずっていた。一方的な、実らなかった恋だった。情熱的にといえば聞こえがいいが、半ばストーカーのようにパリに留学した相手に会いに、相手に呆れられるほど通い続けていたが、ある時、その彼女が消息を絶った。忽然と消えてしまった。未だその傷が癒されていなかった。

あの抗えない馬鹿げた強いストーカーの恋愛感情をコントロールするすべがあるなら、それは過剰な食欲を抑える効果的な脳内ダイエット治療と同じじゃないか。あるいは、彼に人間として興味を持ってくれたがおそらくアセクシュアルな傾向で彼の想いにまったく応じてくれなかった彼女みたいな人に少しでも恋愛感情をもたらすことができるなら、それには何かしら意義があるはず。そんな考えに至っていた。

一方で世間では、そんな研究は、本来それぞれが持つ個性であるセクシュアリティや恋愛感情を人為的にコントロールしようとするもので、濫用されたり、変な人格が変わってしまうような副作用があるのではないかという懸念の声も強かった。

リュイスの考案した、メッセンジャーRNAで恋愛感情を高めたり、抑制したりする方法は、未だ研究段階であって実用化の臨床試験などまだまだ先であったが、希望者に限り、本人のきちんとした同意を取ったうえで、バルセロナでも20人ほどがリュイスの治療を受けてモニタリング対象となっていた。

昔なら飛行機で1時間ほどの元バスク地方、いまやエウスカディ共和国の首都となったドノスティアで来年の11月にはこの脳内治療を主なテーマとした学会が開催されることが決まっていた。地球温暖化対策で今や欧州では飛行機の便数が激減していて、その代わりに鉄道輸送が復活していた。

リュイスはそこでの発表のため、モニタリングからのデータの処理に追われていた。徹夜も続いていたが、ドノスティアまでは鉄道で8時間くらいゆっくり揺られて行こうと、子供の頃家族旅行で乗って車窓から見えた、壮大なピレネー山脈の高原の景色を思い出していた。 



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