米TVドラマ「オザークへようこそ」
また、NetflixのBinge watching(いっき観)で、コロナ巣ごもり中に、このアメリカ地方舞台ものクライムシリーズを3シーズンみてしまった。まだ続きそうなので楽しみだが、なかなか奥が深い作りのドラマ。
ごく平凡でまっとうな普通のアメリカ人家族が、犯罪に巻き込まれ、生き延びるために犯罪に手を染めて、必要あれば殺人までも犯して、という構造は、名作ブレイキング・バッドと共通している。
ブレイキング・バッドの舞台のNew Mexico州に対して、こちらは中西部のシカゴとミズーリ州の避暑地Ozarkが舞台。
前者での悪の組織犯罪グループはメキシコ系麻薬カルテルだったが、ここ中西部の地元ではヒルビリー系白人の犯罪ファミリー。もちろん、というか、メキシコ系麻薬カルテルも三つ巴となって登場するが、ここはシカゴが近いのである意味メキシコとのつながりも納得。シカゴは昔からメキシコに鉄道が延びていて、結構メキシコ系が住んでたりして、中西部に位置しながらメキシコとのつながりがあるというのを昔、シカゴに行った時に知った。
しかし、二作とも、ごく普通のアメリカ人が、かたや覚醒剤密造、こちらはメキシコのドラックカルテルの資金洗浄に手を染めてしまい、後戻りできず物事はエスカレートして、という筋書きなので、いろいろアメリカ社会について考えされられる。
個人的に知り合ったアメリカ人、おそらく2億を越える人口の6割とかの、NYとか大都市ではなくて地方都市の普通の中産階級の白人系の人たちは、人当たりも良くて、ナイスで、家族思いのまっとうな価値観をもった人が多かった。ドラマでは、そういう普通の人たちが、そういう価値観はコアのところでは保ちながらも、自衛のため、家族を守るため自らを悪にして、職業犯罪人たちに殺されないようにするのだが、それが逆に話をエスカレートさせていく。仕事の一環としていとも簡単に人を殺してしまうような犯罪集団に対して、良心の呵責と葛藤しながら、生き残るために一線を越えて、トチ狂って暴走するという筋書き。歯車が狂って暴走するというのは、クライム・ドラマの醍醐味。
数年前にも思ったが、ちょっと話題が飛躍してしまうが、政治面でのトランプ現象も、プーチン・ロシアや習近平中国など、てごわい面々が国際社会で台頭してくる中で、あるいは、国内的にも都市部で麻薬がらみの組織犯罪がはびこる中で、アメリカ社会が生み出した対抗策なのではないかなと思ったりもした。ごく普通の人間が、悪に伍して生き延びていくために、自衛的に善良な建前をかなぐりすてて暴走していくという。そんな大衆の潜在的なところにうける、けっこう奥が深いドラマの筋書きなんじゃないかなあと。考えすぎかな。まあ、米国のエンタテイメント・インダストリーは恐るべし、英語圏5億人も10億人もいる潜在視聴者にむけて、潤沢な予算で、構想やシナリオも驚くほど質がよいものを送り出してきている。
カルテルの資金洗浄したり、毎回のように人が殺されるなかでも、思春期のティーンエイジャーの成長のエピソードがあったり、家族愛みたいなものを再定義するような展開があったり。ある意味、すでに陳腐化した昔ながらのファミリードラマのエッセンスは、ちゃんと盛り込まれていたりする。
あまり重要そうでない役がだんだんいい味だしながら常連になったり、強烈な印象で絶対消えなそうな役が、あっさり(でもたいがいシーズン・フィナーレで)殺されるというのも、Breaking Badに似て、こちらの想像をはるかに上回る展開なので、このシナリオ・ライター達は凄い、手抜きがない。主役級の人気役者を、突然消し去ったりする。
今日観終わったシーズン3の最後では、こちらもさすがに驚かす展開には慣れてきたので、この絶対的な悪役が消えるかなと思いながらも、いやそれはありえないかな、と観ていたら、最後の数分で、彼女はあっさりと消されてしまった。
まあ、殺人とか銃撃とか麻薬乱用が多いのはなにかとあれだが、フィクションなので、殺しというのが、実際の生活での裏切りや喧嘩の「比喩」とくらいに思っていれば害はないか。Netflixで地上波じゃないからか、運転しながらの携帯での通話とか、結構残酷なシーンとかが(ドラマの展開上意味があるが)結構でてくる。
クライム・ドラマというのは、なにも事件が起こらない平凡は家庭ドラマよりも、殺人や強盗が起こる怪しい犯罪集団の世界が野次馬的に垣間見れて、ストレス解消になるエンタテイメントといえる。このドラマも新シーズンまでしばしお預けだが、80年代の個性派美人女優エレン・バーキンが主役のAnimal Kingdomというのが結構面白そうなので、また、イッキ観してしそうである。