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お酒のはなし


〈黒ラベル〉
「先にお飲み物お伺いします」
席について早々にそう言われて、目の前の彼女と目が合う。ボリュームのあるBGMに人の話し声で、声を出すことを諦めたのか、ゆっくり頷くその仕草に、一瞬メニューを見てビールを2杯頼んだ。マスクをとりながら、すごいよく分かったねなんて、道で猫を見つけた時の目でこっちを見る彼女が可愛かった。大体の人が一杯目はビールじゃないの、と言いながら、だって黒ラベル一番好きでしょとは言わなかった。


〈レモンサワー〉
「今日って誰が来るんですか?」
残業ない組で残業する組を待つこの時間が好きだ。誰が来るかも把握せずに、僕に誘われたら来るところも好きだ。清々しいくらい意識されていない。安心されきっている。よく喋るけれど大体ゲームかアニメの話なのも、スーツを着ているのに年齢確認されるその顔も、全く飽きなかった。いつもずーっとそれ飲んでますよね、レモンサワーと同じくらい、飽きなかった。


〈ウーロンハイ〉
「今度このボロネーゼ食べに行かない?そこのティラミスが美味しいんだって」
デザートを見据えた計画を話しながら、食べきれない注文をする彼女は、そうやって今度の話をする。その今度は、僕との今度ではないことも、本当は今日そいつに来てほしいことも、酔った勢いとかで親友に電話させることも、ウーロンハイで酔ったふりすることも、全部分かっている。分かった上で、食べれなかったら俺食べるからいいよ、なんて言う僕も僕で、デザートより目の前のポテトが食べたくなるタイプなんだろう。


〈グレープフルーツサワー〉
「お任せで、いつもそうだもんね」
彼女の飲むお酒もお酒じゃないものもそのタイミングも、全てを委ねられているのに、それ以外のことは何一つ僕に権利はない。僕に関する権利を欲しがることもない。信用されているのか線を引かれているのか、どうやっても先に行けない気がするのに、どんなメンバーで飲んでも、自分に近い存在として周囲に認知させるそれに、一瞬の優越感と虚しさがよぎる。せめてもと、じゃあ好きなやつにしとくねなんて言いながら、グレープフルーツサワーを頼んだ。

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