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【058】ストラクチャー検討は楽しく、かつ、怖い

最近ドラマ観てまして、主にプライベートバンカーと相続探偵にハマっています。

特にプライベートバンカーを観ていると、仕事でのM&Aにおけるストラクチャー検討を度々思い出すぐらい、なんとなく親近感を感じてしまいます。なお、プライベートバンカーの方で取り挙げられているスキームは概ね違法なことが多く、実際の仕事では実用的ではない点、念のため申し添えておきます。

このストラクチャー検討(※)、個人的には結構難しく、大変な印象があります。(※プライベートバンカーではスキームという言い方をしていますが、ストラクチャーの方が馴染みがあるので、そちらに統一します)

その反面、専門家としての技量を発揮しやすい領域とも捉えています。特にM&Aにおけるストラクチャーは検討する時間自体はDDなどに比べて、相対的に短いのですが、買主・売主・対象会社などの当事者の資金効率に影響があるため、影響度が大きい論点です。ストラクチャー次第で、買主側であればM&Aに要する取得費用が変わってきますし、それ故に資金調達の方法にも影響があります。逆に売主から見れば、手取りの金額に影響するので手取り額最大化を目指す方法を選択したいところです。


◆総合格闘技としてのストラクチャー検討

◇税務知識

実際にストラクチャーを検討する上でどういう要素が必要なのかというと、やっぱり税務の知識です。税務専門家(≒税理士)としての知識のレベルが必要が必要な場合もありますが、それが必須になるのは中盤以降のフェーズで、DD入る前までの序盤では「税務専門家水準の」詳細な知識は不要かなと思ってます。ただし、ストラクチャーの選択肢案を複数並べるだけの税務知識は必要なので、個人的な感覚としては会計士試験の論文式試験や修了考査以上の知識は必要だと思います。

ただ、闇雲に濃淡なく覚える必要なく、法人税法や所得税法を中心に、どういう取引をしたときに、誰にどういう課税関係が発生するのか、が分かっていれば良いかと。その他に登録免許税や消費税の各種論点ありますが、その辺りは専門書を読むと派生的な論点として出てくるので、枝葉として押さえておきましょう。重要なのは、例えば同じ取引をした場合に当事者が法人と個人とで税率がどう異なるのかであったり、M&Aの取引の対価次第で課税対象がどう変わるのかであったり、ストラクチャー案を比較するときの差分が何かわかることですね。言うは易く行うは難しで、この辺りが非熟練者にとって、ストラクチャーって難しーとなる要素だと思います。

◇ビジネス・法務の知識

あと、税務の知識以外にはビジネスや法務の知識も必要です。経営統合などの話になると税務の問題はもちろんありますが、それ以上に双方の事業が継続可能か?既存の会社或いは商品のブランドを今後継続するか?みたいな事業継続に係る論点があります。ストラクチャー次第では事業継続に必要な要素を引き継げない場合もあり、これを見逃すと大変です。

また、規制産業、例えば、石油などの資源を取り扱っている業種であれば、各種の規制当局の要求事項を満たせるのか、法務的な観点での検討も必要です。なお、規制産業でなくとも、事業を行う上での必要な許認可や届出は必要なことはあるので、この辺り留意が必要です。

上記で挙げたビジネス・税務・法務以外にも種々検討が必要な切り口があり、ストラクチャー検討は総合格闘技な要素が強いです。

◆クライアント対応してて一番怖い瞬間

◇網羅性

ここまでがストラクチャー検討について頭に入れておくべき要素でしたが、実際にストラクチャー検討する際、特に序盤において重要視しているのは網羅性です。複数の選択肢案を作るのは当然として、理論的に存在しうる選択肢案かつクライアントにとって望ましい案が取りこぼれていないか、を一番気にしています。

USスチールの話は、途中でストラクチャーが変わったケースです。初手がダメだった場合に次善策を用意していないと、交渉がストップしてしまうので、二手三手先を考えつつ、代替的な選択肢を常に持っておく必要があります。いわゆるBATNAです。

交渉の中盤・終盤でBATNAを提示するためには、序盤で検討すべき要素と選択肢案が漏れないように洗い出しておくのが大事です。

◇「このストラクチャー検討してますか?」という質問

なお、偉そうに方法論を述べていますが、実際に、私自身がストラクチャーの検討支援をしているときは結構いつもヒヤヒヤしています。その中で、一番ヤバイ状況は何かというと…

「こういうストラクチャーであれば、弊社及び関係者の優先事項等を満たせると思うんですが、先生どう思いますでしょうか?」と聞かれる瞬間です。これを言われた瞬間にプロとしては負けだと思っていますし、その前提で、その後はなるべく善処するようにします。こういう言い方をされるときってクレーム的なニュアンスも含まれていますので。

もちろん共有されていない情報を前提として新しい選択肢案が出てきたのであれば、やむなしとなる面もありますが、少なくとも共有された情報はフル活用して、最善案を提供することが求められています。

◇早めに他人の頭をお借りする

というわけで、私自身もストラクチャー検討を独りで完遂するのは結構怖い部分があるので、自分より上位の方に相談することが多々あります。序盤であれば、軌道修正可能なので、検討に加えて相談も早めが吉です。

◇前提が変わったときこそ腕の見せ所

怖い話ばかり書いてしまったので、最後ポジティブな話をしておくと、M&Aの前提条件が変わり得るような事象が発生した際、改めてストラクチャーを検討する機会があり、こういう対応を素早くかつ正確に出来ると、クライアントの方に喜ばれることが多いです。前提条件が変わったとて、それがストラクチャーにどう影響があるのかは上記で挙げたような様々な要素が絡んでくるので、すぐにわからないことも多く、それ故に専門家としてはココが腕の見せ所だったりします。

今日は以上です。ありがとうございました。

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