自分の“しゃべり”が100万円で売れた話【配信者インタビュー:そんない竹内さん】
Radiotalkで活躍する音声配信者「ラジオトーカー」を紹介していく連載インタビュー企画。今回は、番組『そんなことないっしょ』を配信する、そんない竹内さんにフォーカスします。
そんない竹内さんは、営業マンとして働く50歳男性。会社員として勤務するかたわら、Radiotalkで番組を配信しています。
今年4月には、番組に対してリスナーから贈られたギフトの課金額が月100万を突破。友人との「ラジオごっこ」から始まったという竹内さんの配信は、いかにして熱烈な支持を得るようになったのでしょうか──。
(取材・文/天谷窓大)
友人以外にも「自分の話」を聴いてほしかった
──竹内さんが音声配信の世界に足を踏み入れたのは、いつですか?
竹内:2010年3月31日です。この日初めてポッドキャストを配信しました。
──そもそも音声配信を始めようと思ったきっかけは?
竹内:AMラジオの深夜放送が好きで。『オールナイトニッポン』とか、『JUNK』とか。フリートークを聴くのが大好きだったんです。
自分が普段生活するなかで面白かったことを人に伝えて笑ってもらったり、感心してもらったりするのって、いいなぁと思って。友達や周りの人間だけでなく、1人でも多くの人が自分の話を聴いてくれる番組をやりたくて、友人と2人で「ラジオごっこ」を始めたのが最初です。
──初めてアップした番組はどんな内容でしたか?
竹内:一番最初は、自己紹介でしたね。「自分たちはこんな人間なんだよ、こんな仕事してて、こういう人間なんだよ、よろしくね」という挨拶から始まって。そこから先は、毎回1つテーマを決めて、2人で喋っていました。
──反響はいかがでしたか?
竹内:それが、全然なくって。まぁ、どこの誰かもわからない素人のオヤジがしゃべってる番組なんて、聴く人いないですよね(苦笑)
それこそ最初は、自分で番組宛てに架空のリスナーメールを送って、「こういうメールを欲しがってるんだよ、僕らは」とアピールしていました。あとはプレゼント企画をやってみたり。いろいろ試行錯誤していたら、徐々に熱のこもったメールが届くようになりました。
開始3ヶ月、いきなりリスナーに助けられる
──そこから、竹内さんの音声配信のキャリアが始まるわけですね。
竹内:いえ、その番組は3ヶ月で終わっちゃいまして。
──なんと。
竹内:いろいろあって、その友人とは「一緒にやれない」ということになって。3ヶ月でコンビを解散してしまったんです。
「1人だからどうしようもないな、もう終わりにするしかないかな」っていう話をしていたら、あるリスナーさんが「できるだけ協力するから、続けて欲しい」と声をかけてくれて。その方と、私の知り合いで一緒にしゃべれそうな人と、3人で再スタートしたんです。
──リスナーさんに助けられたのですね。
竹内:そう、最初に付いてくれたリスナーさんに、いきなり助けられたんです。すごいことですよね。この方がいなかったら、音声配信を続けていなかったでしょうね。
そこから少しずついろんなことがあって、番組メンバーも少しずつ増えていって。仲間も増えてきたので、「そんないプロジェクト」という制作チームを立ち上げて、新しい番組を複数作っていくことにしたんです。
「番組レーベル」を立ち上げ、複数の番組でリスナー同士を送りあった
──1つの番組を大きくしていくのではなく、複数の番組を展開したのですね。
竹内:新しい番組を作ると、それだけ発信ジャンルが増えて、新たなリスナーさんがつくじゃないですか。そうすると、番組同士で「こんな雑談の番組もやってるらしい」というように、リスナーさんが他の番組からも流れてきてくれるんです。
──それは秀逸なアイデアですね!
竹内:音声配信を始めたてのころ、リスナーさんを集めるのにすごい苦労したので。その経験から考えついたアイデアでした。
どんなに面白い番組でも、Apple Podcastのランキングで100位以内ぐらいに入っていないと、リスナーが増えないんですよ。存在すら認知してもらえないんです。
そんななか、ある程度自分の番組にも固定のリスナーさんが付いてくれて。そこで、「『ポッドキャストをやりたいけれど、なかなか自分でやり方がわからない』『1人でやるのはちょっと不安だ』という方がいたら、みんなうちのチームに来てください」と呼びかけたんです。
──いわば、音楽のレーベルのようなものを立ち上げたわけですね。
竹内:はい。「そんないプロジェクト」というレーベルに加わってもらって、そのなかで新しい番組を作ってもらうんです。そうすると、既存の番組のリスナーさんが一斉に1回聴いてくれる。そうやって注目されることで、ポッドキャストのランキングがグーンと上がったんです。
──番組同士でリスナーさんを送りあえる、と。
竹内:まさにその通りです。その番組自体に新しいリスナーさんも付くので、今度はそのリスナーさんがこっちにも流れてきてくれる。ものすごい相乗効果が生まれました。
他番組のリスナーを“誘導”する作戦
──番組を知ってもらうためにやったことは、他にもありますか?
竹内:当時、ポッドキャスト界ですでに有名だった番組がいっぱいあったんですが、自分の番組でそれをイジり倒したんです。
パーソナリティの人は知り合いでも何でもなかったんですけど、Twitterで「イジって申し訳ございません」と“謝罪”して。「自分の番組でイジらせていただきました。なにか気に障るようなことや問題があったら、言っていただければ、全力で謝ります」というメッセージを送りました。
──ゲリラ的な方法ですね。
竹内:はい。で、その方が…… 今思えば、その方にも何か考えがあったんだろうと思うんですが、返事をくれたんですよ。狙い通りに。
──どんな狙いがあったんですか?
竹内:その方のTwitterのフォロワーさんも、みんなその方のファンじゃないですか。さらに当然、ポッドキャストという存在も知っていると。その人たちに、私とそのパーソナリティの方との会話が見えるわけですよね。Twitterの仕組みとして。
「自分たちが好きなあの番組をイジった番組があるらしいぞ」って、皆さん思うわけじゃないですか。そうしたら1回は絶対聴いてくれる。1回聴いてもらえれば、何人かは残ってくれるはずだという狙いがあったんです。
見事、その作戦は成功して。パーソナリティの方もお返事をくれて、その番組のリスナーさんがたくさん聴いてくれて。それで少しずつ、番組が軌道に乗っていきました。
「ラジオ愛に惚れて」Radiotalkへ
──ポッドキャストで発信を続けてきた竹内さんがRadiotalkを始めたのは、どんなきっかけからだったのでしょう?
竹内:ポッドキャストを続けても、まったく収益にならなかったんです。仲間たちが同様の理由でモチベーションを保てずにどんどん途中で辞めていくのを見て、「音声配信だけで生活できないかな」という思いが強くなっていきました。そんななか、Radiotalkと出会ったんです。
──数ある音声配信サービスのなかで、なぜRadiotalkを?
竹内:Radiotalkの持つ雰囲気とリスナー層、もう一つは井上(佳央里)社長の、ラジオに対する愛情の強さに惹かれました。とあるイベントでの講演を聴いて、「この人、めちゃめちゃラジオ愛がすごい!」と思って。あれがなかったらたぶん、違うところでやっていたと思います。
タブレット+ミキサー+外付けマイクで配信
──普段の配信環境を教えて下さい。
竹内:自宅では、外付けのマイクをZOOMの「PodTrak P8」というミキサー経由でタブレットにつなげて配信しています。もともとポッドキャスト用に揃えた機材なんですけどね。
これを使うと、ちょっとしたBGMを鳴らすこともできますし、マイクを複数使用することもできます。
──配信時、技術的にはどんな工夫をしていますか?
竹内:収録トークを録る際には、あまり生活音が入らないようにしています。私自身、背後で生活音がガチャガチャしているトークはあまり聴きたくないなと思ってしまうので……。
収録配信に関してはできるだけ綺麗にしたいな、とこだわっています。
逆にライブ配信では、若干生活音が入ってもいいかなと思っています。それ込みで楽しんでもらうのが醍醐味という気がするので。
ライブ配信は「同じ席でわちゃわちゃしている感じ」
──収録トークとライブ配信で、スタンスが異なるのですね。
竹内:これはいろいろ考え方があると思うんですが、私の場合でいうと、収録トークではBGMをきちっと入れて、できるだけ番組っぽくなるよう意識しています。
一方で、ライブ配信は、収録トークを聴いてくれているリスナーさんとコミュニケーションを取る場だと思っていて。収録トークほど音の環境は気にはしていないですね。車の中で喋りながら、ということもありますし、外食に出かけて、その様子をそのまま配信することもあります(笑)
──日々の生活を、まるごと共有してしまうわけですね。
竹内:そうですね。それも含めて楽しいかなと思って。本当の意味で「ライブ」ですよね。
ライブ配信を「ラジオの生放送」のように考えて配信されている方は、音質とか、話す内容とか、すごくこだわられてると思うんですよね。私はあまりこだわっていなくて、リスナーさんといかに楽しむかが大事、というか。
もっと言えば、リスナーさんを楽しませようというより、私が楽しませてもらっている感覚の方が強いですね。リスナーさんと同じ席に着いて、わちゃわちゃしている感じです。
──日々の配信ペースは?
竹内:ライブ配信は、まず朝に1回、通勤途中に短い配信をしています。あと、昼休みに1回。帰宅したタイミングでも短い配信をして、あと夜ですかね。多いときは1日4回ライブ配信をしています。
──ライブ配信が日々の生活軸に埋め込まれていますね。
竹内:車をよく使うので、自分ひとりの時間が長いんです。なんとなく時間があれば、ライブ配信していますね。
平日も、昼休みの時間になったら、コンビニの駐車場に車を停めて、「ちょっと今からご飯買ってくるから、コメント欄で自由におしゃべりしてください」と言い残して、そのまま買い物に出かけたり。
帰ってきてコメント欄を見ると、「何買ってくるのかな」なんて、リスナーさん同士で盛り上がっていたりするんです(笑)
──竹内さんそのものを面白がっている……。
竹内:普段のライブ配信からそうなんですけど、私がちょっと真面目な話をし始めた途端、リスナーさんが音声付きのギフトを投げて邪魔してくるんですよ。それを見て私が「しゃべらせろよ!」ってツッコむという。そんなノリがもう出来上がっているんです。ライブ配信という場を最大限に遊んで、楽しんでいるなというのは、すごい感じますね。
収録トークは「アドリブ一発録り」
──収録トークは「作り込む」ということでしたが、台本なども書いたりするのですか?
竹内:台本は作らないです。収録、ライブ関わらず、作らない。何についてしゃべるかを箇条書きにしている程度で、ほぼアドリブで一発録りです。
──すごい! 相当な集中力が要求されるのでは?
竹内:いえ、何回も録りなおしますよ(笑) なんせ一発録りでやろうとしているので。BGMも載っけて、一発録りなんです。
──自ら高いハードルを課しているのですね。
竹内:わざとそうしているんです。「これは編集できないんだぞ」と自分自身に言い聞かせて、「失敗しても、あとから編集すればいいや」という考えを諦めさせています。こだわり始めたら、いくらでもこだわれちゃうじゃないですか。
ポッドキャストも最初は、編集をちゃんとやっていたんです。「あー」「えー」と言いよどんだところや、面白くなかったところをガッツリ切ったり、結構ちゃんとやってたんですよ。
でもだんだん、そんなことに時間を割かない方がいいって思いはじめて。オープニングだけ編集するようにしたんです。オープニングがテンポよければ、その後も引き続き聴いてくれるかな、と思って。
でもそれも、いつのまにかやらなくなりましたね。 いったん収録すると、配信日までソワソワしちゃうんですよ。「やっぱりあれ、面白くなかったかな……」って思っちゃう。そんな自分を諦めさせるために、BGMも一緒にのっけて録っちゃえ、って。
──強制的に踏ん切りをつけることで、前に進むよう自分を仕向けているのですね。
竹内:「どうしたら続けられるか」を第一に考えた形なんですよね。
続けるには、一番手間をかけず、最低ラインのクオリティーを担保できていればいいんだ、と思うようになりました。
「言いよどむ間合いも含めて自分」
──なかなか勇気のいる決断ですが、どんな経緯でそう思ったのですか?
竹内:伊集院光さんの番組を聴いていて、感じたんです。
ラジオの神様ですよ。伊集院さんといったら。
でも、フリートークをよくよく聴くと、すごい間が空くときもあれば、「あー……」と言いよどむことも多い。だけど、何も気にせず、楽しく聴ける。それにあるとき、気づいたんです。
今まで自分がやってた編集って、自己満足だったんじゃないか、と。「あー」と言いよどむ間合いも含めて自分なんじゃないか、と思って。
噛んだり、言い間違いも含めて楽しんでるんですよね。リスナーさんは。噛んだら、噛んだなりの後付けの言葉つけちゃえばいいだけなんです。
──「そういう展開」として、届けてしまうと。
竹内:そうですね。それに気づくのに意外と時間がかかりましたね。
自分の“しゃべり”が100万円で売れた
──4月19日、Radiotalkが「トークの日」と銘打って行ったライブ配信イベントで、竹内さんは“24時間連続配信”を敢行していましたね。
竹内:あの日、どこまで結果を残せるかで、自分がRadiotalkでどこまで活躍できるかが決まると思っていました。1日限定のイベントということもあって、「トークの日は24時間やる」というのが私にできるマックスだ、と。
だからこの日は、私ができることの多分ほぼ全て出し切りました。
自分が持てるだけのツテをたどって、タレントさんや有名なYouTuberさん、ポッドキャスターさんにできるだけお願いして、ゲストに出てもらって。
私ができることと言ったら、自分の人脈でいろんな方をゲストに呼んでお話するということしかなかったのですが、ポッドキャスト時代からのリスナーさんや、Radiotalkを始めて付いてくれたリスナーさんが、すごく応援してくれまして……。自分の配信にかける思いが伝わったんだと思うと、本当に嬉しかったですね。
──ライブ配信中、画面を埋め尽くすほどのギフトが贈られていたのが印象的でした。
竹内:イベント当日の午前0時15分から配信を行ったのですが、スタート直後から、リスナーさんが一気にギフトをバーッて投げてくれて。
私を驚かせようとしてくれたのかな。なんと最初の10分で、10万円を売り上げたんです。最終的に贈られたギフトは、1ヶ月で100万円にも達しました。
──リスナーさんにとっても、ギフトが思いを伝える手段になっていたのですね。
竹内:リスナーさんの愛の強さ、1人ひとりの方の熱量をすごく強く感じましたね。私もリスナーさんも、一緒になって楽しめたというか。他の音声配信サービスを使ったこともありますが、Radiotalkは明らかに、私もリスナーさんも楽しめる仕組みと雰囲気がうまくできていると感じました。
「トークの日」での出来事は、私とリスナーさんが精一杯Radiotalkで楽しんだ結果だったのだと思います。
──共通の遊び場のような。
竹内:飲みの席でも、盛り上がったら「あれ注文しようぜ、これ注文しようぜ」って、どんどん飲み食いしちゃいますよね。結果、お金もいっぱい使うじゃないですか。その感覚に近いのかなと思いました。
会社員から、“トーカー”という職業へ
──このたび、会社員から「専業トーカー」になると聞きました。
竹内:はい。今年の夏に会社を退職して、自分のトーク配信の収益で生計を立てる「ラジオトーカー」として独立します。
小さな会社だったので、「自分が辞めることで迷惑をかけてしまうのではないか……」という思いもあったのですが、それよりも、今まで自分がやりたいと思っていた夢を優先することにしました。
幸い家族もOKを出してくれたので、自分にとってはかなり冒険ではありますが、チャレンジさせてもらおうと。
──決断の決め手は?
竹内:先日50歳になったので、タイミング的にもちょうどいいかなと。
今年の頭からなんとなく、私の中に希望としてあったので、家族には少しずつ話はしていて。Radiotalkを始めて、それなりに実績が出てきたので、「いま現在、これくらいの収益を確保できている」と伝えた上で、「今年中には完全に軌道に乗せるよう、頑張るから」と説得しました。もっとも妻は、「いつか言うだろうな」と思っていたみたいですが……。
「ありのままの自分を見せて、それが生活の一部になる」
──竹内さんにとって、Radiotalkはどんな存在ですか?
竹内:いま、一番楽しい遊び場ですね。その遊び場に行けば、いつもの仲間がたくさん来て、一緒に来て遊んでくれる。
落ち込んだり、何か愚痴を言いたいときも、私はライブ配信するんですよ。番組を配信しているというよりは、「楽しい仲間に会いに行っている」という感覚なんです。
落ち込んでいれば愚痴るときもあるし、楽しい気分のときは当然そこへ行く。ありのままの自分の姿を見せて、それが生活の一部になっています。
──今後、新たにやってみたいことはありますか?
竹内:「音声配信だけで生きていく」という夢を持っている方のお手伝いができたらいいなと。11年ちょっと音声配信の世界でいろいろ経験してきたことを、これから始める人に向けて還元できたらいいなと思っています。
──竹内さんのように、音声配信する人が増えて行ってほしいです。
竹内:いまは環境がすごく整っていますから。音声配信を始めやすいのは間違いないですよ。私が始めた11年前には、Radiotalkのような楽しい遊び場、なかったですから。