海と山の狭間・神戸

 神戸に住んで20数年になる。愛媛県松山市で生まれ育った自分にとって違和感なく馴染めた街だ。
 大阪や東京で生活を始めた時は、自分が根なし草になったような不安を抱いていた。しかし、神戸に住み始めたときはそのような不安は無く、ワクワクしていたことを思い出す。

 少し地勢について触れておこう。南北にある瀬戸内海と六甲山地にはさまれた、幅が数kmの狭い土地に、神戸市街地が東西に15kmほど延びている。不動産業界では、阪神エリアと呼ばれる範囲に含まれ、交通網がしっかり整備され、住みやすいという点で人気のある地域だ。

 ここで神戸市街地とは東灘区、灘区、中央区、兵庫区、および長田区の5区とした。選定理由は、これらの5区すべてに住んだことがあるという個人的経験にもとづく独断である。これら5区以外の神戸市内は住んだことが無いので、フェアな選定理由になっていないがお許しいただきたい。

 神戸市街地では、大抵の生活用品を徒歩圏内のお店で買い求められるため、とても生活しやすい。私の自宅近辺だと徒歩10分以内にスーパーが5店舗ほどある。普段、仕事はリモートワークで在宅にて行っている。昼休憩時にスーパーへ買い物をし、ついでに図書館へ予約本を受け取りに行ったりできる。そんな距離感で生活を送ることができている。

 自宅で仕事をしていると、朝、昼、夕の決まった時間に、美しい教会の鐘の音が聴こえる。さらに同時刻の朝夕には、お寺の落ち着いた鐘の音も聴こえる。それぞれ心を穏やかにしてくれる音色だ。

 少しだけ足を延ばして30分ほど山側へ歩くと、自宅からの高低差150mほどの小高い山に公園がある。そこから神戸の海が一望できる。天気の良い日は大阪湾を挟んで和歌山が望める。手前には人口の島が見え、港に赤いキリン-コンテナクレーン-がたくさん並んでいる。

 自宅から海へ出るのも徒歩30分ほどだ。ヨットで1時間くらい航海すると上陸可能な無人島がある。知人のつてで島の所有者から許可を頂いた上で上陸し、BBQを楽しんだ。ゆっくりと進むヨット、ながれる雲、沈む夕日。とても穏やかな一日だった。

 このような景色、風、匂い、気温、そしてそれらの場面で傍にいた人など、自分から見えている世界と、それらに触れて得られた感覚知は、その土地の記憶とリンクしているようだ。土地は無機質だが、人はそれを五感で記憶している。

 私にとっての神戸は、暖かい日だまりの記憶だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?