なぜか、心をつかまれる「神饌」
お気に入りの本はどれか?と本棚を眺めていたら、真っ先に目に飛び込んできたのがこちら。
南里空海 著『神饌 ー 神様の食事から”食の原点”を見つめる』
おそらく、知る人も少ない、ニッチofニッチな本ではないかと思う。
なぜ、目に飛び込んできたんだろう…?
装丁が美しいのはあるが、何か理由があるに違いない。
そう思って、お気に入りな理由を書き始める。
まえがきから心をつかまれる
祭りとはそもそも、豊作を祈り、神様に感謝するもの。
祭りでは、神事が行われる。その神事の際に神様にお供えされる食べ物を「神饌」という。神饌は、海川山野の季節のもののなかから、恩恵を受けた食べ物を、人々が感謝の気持ちを込めてお供えしたもの。
食べ物は自然の恵みであり、神様のおかげである。だから、初物など一番美味しいものは、まず神様にお供えする。このような信仰がなされてきた。
祭りときくと、田舎の村祭りのように、氏子が神輿を担いで町内を練り歩くものという認識の方も多いような気もするが、それは違う。
祭りの本来の流れは、至ってシンプルだ。
関係者が身を清め、それから神饌を神様にお供えする。宮司による祝詞が奏上され、一連の儀式が終わってからお神輿を担ぐ。それが終わると、直会(なおらい)といって、神様と一緒にご飯を食べる。(神人共食)
ここまでをお祭りという。
大規模で有名になり、観光イベント化してしまった祭りもあるが、パリピが知らないその裏で、粛々と神事は行われているのだ。
自然との対話で用意する多様多種な神饌
この本では18の神社が登場するが、どこの神社も独特だ。
これは、日本にはそれぞれの地域に特産品があること、昔から食べられてきた食べ物が違うことを考えると当たり前のことだ。
さらに、口伝で伝えらえたり、秘伝とされる傾向が強いことも理由としてあげられる。
内容を紹介すると、例えば、伊勢神宮では、全て自給自足して神饌を作っている。
神田でお米を作り、御園で野菜を作り、御塩浜で塩を作る。
鰒(あわび)は2000年以上前から鳥羽市国崎の鎧崎にある「御料鰒調製所」から奉納されているし、鯛も南知多町篠島の漁業組合の人の手によって奉納されている。
また、驚いたのが、神饌をのせる土器も手作り、かつ1度しか使用しないことだ。年間約5万7000個が作られ、土に返されているそう。
自給自足するということは、他から持ってくることができない、ということでもある。
それには自然との対話が必須だろう。神様にお供えする食べ物が収穫できなかったでは済まされないので、気候の変化も考慮しながら、品種を変えるなど努力を続けているそうだ。
神饌に関わる人々から伝わる「真心」
神饌の内容も驚くのだが、それ以上に心を掴まれるのが、神饌に関わる人々である。
神饌を作っている神職さんが「神饌を神として扱っている」とあった。
またこのような人々のことを筆者は、
と書いていた。
また、石清水八幡宮の供花神饌も特に印象深かった。
食べ物の神饌を供えた外陣に供えるもので、染色家の吉岡幸雄さんが平成10年から行っているものだそう。
すべて自然の素材を使って染め上げている。大変に手間と時間がかかる作業だが、吉岡さん曰く「伝統が一度途切れると、それを再生させるのは至難の業ですから」と。
また、「手間や時間を惜しんでいたら、人に感動を与えることはできない」とも書いてあった。
先に「私心のない真心」とあったが、私は、果たしてこのような気持ちで仕事をしているだろうか?と自問してしまった。
このような方々の生き方をみていると、よく生きようと思えてくる。雑に生きちゃいけないと思わされる。
神社や神饌にスポットライトが当たっているかと思いきや、奉仕する人々にスポットライトが当たっていた。
不可解でよい
豪華で美しく、きめ細やかで峻厳…。
なぜこんなに手間のかかることをするのか?神様のためだから?
美しさや造形の細やかさに見入ってしまう一方で、不可解さが残る。
わざわざ猪の頭をお供えしたり、鳥をバラして、土台にさして鳥のかたちにしたり、真冬の冷たい海に入ってワカメをとったり、女人禁制だったり…。
また丁寧すぎるほど丁寧に、真心を込めてという姿勢も、タイパや時短とは真逆にある世界な気がする。
現代に生きていると論理的、科学的に説明がつかないことを排除したくなったり、腑に落ちないまま抱えて生きることを嫌ったり…そちらに流されたくなることもある。
答えを出したくなることもある。
だけど、本来、自然はどうにもならないもので、人間の動きですら、論理的では全然ないものだ。だから世の中は不可解なものであって、神饌が、神様に向かうということが、分からなくてもいいのではないかと、思う。
それに真心を込めて、心に迷いなく、神様のためにと、丁寧に丁寧に行うこと、それ自体に、たぶん意味があるのだろうなとも、思う。
また、食は生きることの原点だ。祭りも、古来日本人の精神が脈々と伝わってきたこと。
だけど、現代は、恐ろしいスピードで忘れ去られている気がしてならない…これも私の問題意識ではあるんだけれど、まだうまく書けない。
これからも、向き合いたいテーマなのだろう。
本棚からパッと飛び込んできたこの本が、そんな暗示をしているように思えた。
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