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【今日のエッセイ】#12 ライター75個と僕の欠落

部屋を片付けていたら、ライターが75個も出てきた。

75個。
なかなかの数である。

「ライターがない!」と思ってコンビニで買い、家に帰るとそれをどこかに置く。
また外で「ライターがない!」と思って買い、家に帰るとそれをどこかに置く。

その繰り返しの結果、75個。
なかなかの才能なのかもしれない。。。

普通の人は、「あれ? 家にあったような?」と気づくらしいが、僕にはその機能が備わっていない。
いわば「ライターを増殖させる特殊能力」を持っているのだ。

これはRPGなら重宝される。
「ライターの魔術師」として、どこでも火を灯すことができる。
火属性攻撃には困らない。
でも、現実ではただの無駄遣いである。

ライターだけではない。

僕は「まともに生きるためのスキル」をいくつか取りこぼしている。

例えば、車の運転。
僕は免許を持っているが、運転がまるでできない。

ハンドルを切る、ウィンカーを出す、標識を確認する、前の車の動きを見る、ミラーを見る……。
いやいや、無理でしょ?

人生のマルチタスクですらギリギリなのに、鉄の塊を操りながら同時にこれらをこなすのは、
もはやサーカス芸の領域である。

苦手であっても男にはやらなければならない時がある。荷物を引っ越す為に今日は運転をする必要があった。そして、僕は駐車違反を取られた。

理由が書いてある紙を渡されたが、そこに書かれた文字がまったく頭に入ってこない。
古代文字か? 呪文か?

たぶん「ここに停めちゃダメ」的なことが書いてあるのだろうけど、
そもそも「ダメな場所」の基準が僕にはわからない。

ダメな場所とは一体……?
これについて考え始めると、世界が謎に満ちてくる。

こうして、僕は今日も「まともな人間ではないのでは?」と考える。

たまに考えて、とても落ち込む。

今働いている飲食店が来月で閉店するのだけれど、
それに対して「悲しい」という感情がわかない。

「また新しい店ができるんじゃない?」くらいにしか思えない。

お客さんたちは「寂しい」と言ってくれる。
僕は「あ、そうなんだ」と思う。

感情回路のどこかが欠けているのかもしれない。
普通の人が「悲しい」と思う場面で、僕は何も感じない。

かといって、無感情なわけではない。
寂しさや焦りはある。
でも、それをどう処理していいのかわからない。

まるで、たくさんのライターを前にして「火をつけるのはどれ?」と戸惑っているような気分。

こうして僕は、ガス・水道・電気の支払いを忘れ、
何度も止められ、ポストを開けられずに放置し、
気づいたら「ライター75個」という結果を生み出している。

人生は選択の連続だというけれど、
僕は選択する前に何かを忘れ、
選択するべきことがどんどん積み重なっていく。

そして最後には、「これ、どうしたらいいの?」という途方もない状態になるのだ。

でも、まあ、ライターはある。
しかも75個も。

火は絶やさない。

そう考えると、僕はまだやっていける気がする。

と思わないとやってられないヨ!!

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