会社員生活15年間の大まかな読書遍歴
読書は自分の仕事やキャリアについて考える上で切っても切れないものです。会社の後輩に本の紹介を求められることも多いのですが、いつ何を読んだら良いかって一言で言い切れないので自分がどんな本を読んできたのかの整理をしておきます。結論から言えば「駆け出し時代(20代前半)は実務に関する本、まだ若手の頃(20代後半〜30代初め)はビジネス全般、中堅以降(30代中盤以降)は歴史・科学・宗教」についてのウェイトを多めに読んできてたことになります。それぞれの時期に突き詰めて読書(や勉強)をしたことで、ある意味ゆきだるまの「芯」を作ってこれたような感覚で、なかなか楽しめているので良かったら参考にしてみて下さい。
1.自分が新人時代、仕事に悩みながら読んでいた本
自分が新人~2年目くらいに、あれこれ仕事に悩みつつよく読んでいたのは歴史小説、ビジネス小説でした。ベタですが、司馬遼太郎、山口豊子、三枝匡さん(ビジネス三部作)など。今で言えば池井戸潤さんが近いです。仕事もろくにできないのに、毎晩二子玉川のマクドで24時の閉店まで「関ヶ原」の島左近はなぜこんなに魅力に溢れてカッコ良いのか、「項羽と劉邦」はやっぱ人間力の劉邦だなとか、そんなことばかり考えて手帳にメモしていました。今振り返って見ると読んでるに越したことない本ばかりではありますが、仕事で悩んでるならもっと実務に近い本を読んだら良かったなと思います。「自分も島左近みたいになるには何が足りないのか」「石田三成や項羽はキレキレなのに、どうして求心力が足りなかったのか」と考えながら、目の前の仕事は全然できてなかったのだからちょっと滑稽だったかなと。社会に出たての頃のモラトリアムの時期は自分が社会に船出するにあたってのチューニングの時期だったと言えるかもしれません。あと2005年当時はまだ新進気鋭な雰囲気のあった茂木健一郎さんの本も当時たくさん読みました。一言で言えば空想少年だったと言えるかもしれません。
◆関ヶ原(新潮文庫)司馬遼太郎→石田三成の生真面目さと周囲の白けた反応等は現代でも既視感のある感じでソワソワしながら読んだのでした。後日、自分が彦根に転勤したのは胸熱でした。https://www.amazon.co.jp/dp/B00SQY8J78/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_JAmeEbN6MN599
◆生きて死ぬ私 (ちくま文庫) 茂木健一郎→「人生の全ては脳の中の出来事である」という一節に当時衝撃を受けてすごくハマりました。仕事の後にこういう本を読んで思惑にふけっている若手がいたら「もっと仕事の勉強したら」と自分でも言うかもしれませんが、仕事終わりの夢想は当時の自分には貴重な時間でした。
https://www.amazon.co.jp/dp/B078JCKP7H/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_ACmeEbE7YRW4X
2.2~3年目以降、仕事でブレイクスルーした時期に読んでいたもの
既に何度か書いた2年目以降の自力自走の時期は、ストレートに「仕事そのものを深掘りする本」を貪るように読みました。自分の仕事は法律の実務に深く関わるので会社の社内マニュアル、判例百選、弁護士の仕事術、交渉術、等々。2年目の秋頃から「今日より少しでもパワーアップした自分で翌日の仕事を迎え撃つ」ような感覚にハマりそんな生活を半年~1年くらい繰り返した頃に自分の中で確かな変化があったように思います。そして会社の中でノウハウやマニュアルとして定められていることの殆どに、裁判例や法律といったオリジナルの情報源があることを理解しました。
職場の人がほとんど読んでないであろう(と当時は思っていた)訴訟や賠償の専門書、裁判官の座談会などの話を読んだり東京地裁の講演会を聴きに行ったりして、単純に視野がどんどん広がっていって面白くなっていきました。1年めの頃は「先輩が放置で何も教えてくれない」と受け身な姿勢でいたのですが、2~3年目からは「あぁ自分から情報を取りに行けばこんなに世界が広がるのか、教えてもらうのを待ってなくて良かったんだな(これからは自分でどんどん世界を広げていこう)」と思えたことは自分にとっての一つの転機でした。まるで業務時間外に専門家から毎日仕事を教えてもらっているような充実感は、当時人間関係でも悩んでいた自分に「これでなんとか生きていけるかもしれない」と涙が出るほど嬉しいことだったのでした。
◆交通事故判例百選(第5版) 別冊ジュリスト 新美育文→こういう原典に近い文献をいかに早く読んでおくかで、仕事の判断効率は格段に変わってくるということを理解しました。 https://www.amazon.co.jp/dp/B077D9SFJS/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_8ImeEbEPDBD3F
3.ビジネススクール時代
6年目でビジネススクールに通いだしてから2~3年は課題図書や勉強のための本を必死に読んでいましたが、ここで「戦略系、カネ系、ヒト系」といった大まかなビジネスカテゴリの地図が自分の中でできたように思います。国内外の企業のケースから有名経営者の本など、読んで面白かった本はそれこそ無数にありますが、特定の一冊というよりは「世の中でビジネスが語られる範囲ってだいたいこんな感じなのか(意外と身近なことが多いんだな)」という全体の印象を一つ一つ作った時期のような感じです。
もし今の自分が経営を学び出した頃の自分にアドバイスするなら、読みやすい企業の成功事例だけでなく、全体を俯瞰した理論などのアカデミックな本もバランス良く読むことかなと思います。例えば歴史の大きな流れを語れる「経営戦略全史」は、MBAで言われる様々な経営戦略について俯瞰できてすごく参考になる本でした。大学院の経営戦略の講義で「大事なのはポジショニングだ」、はたまた「この成功要因はリソース重視でピボットしたことだ」等、一見すると矛盾するような話が色々出てきて「何が正解なのか全然わからない」と混乱していた時期がありましたが、「結局は戦略に一つの唯一解ってないんだな(成功事例をあとからカテゴリ分けしているのが経営学の側面でもあるのか)」ということがわかったのが目からウロコだったのでした。やったもん勝ち、試したもん勝ちというと身も蓋もないですが、先行事例を知っておくのは大事なことですね。
◆ 経営戦略全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ) 三谷 宏治https://www.amazon.co.jp/dp/4799313134/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_Qe1eEbQQXMG2N
あと、経営者が成功体験を語るのではなく文字通り七転八倒しながら自分と会社を成長させてきたことがわかる飾らない本はどれも好きでした。特に下記の3冊は最高でした。最近で言えばナイキ創業者のシュードッグに繋がるような本ですね。言わずとしれた名作三部作ですので若手の方ならどうぞ。起業家志向の方にもおすすめです。
4.ビジネススクール卒業後は徐々にビジネス書を離れて
ビジネススクール卒業後も好きでついビジネス書を手に取ることは多いですが、課題のためでなく読みたい本を読むようになったこともあって徐々に翻訳書・アカデミック寄りな本(と言っても良いのかわかりませんが学者さんの本)を読むようになっていきました。なぜ翻訳書かと言えば日本で議論される様々な事柄に元をたどれば海外発の「原典」があることが多いこと、少なくとも翻訳するまでに一定のふるいにかけられていると思ったこと等からです。特に海外のビジネス書は分厚くて読みにくい本も多いのですが、それだけ中身も濃くて良書を選べることは増えたように思います。既にnoteで紹介した「ファスト&スロー」や「反脆弱性」などはめちゃくちゃ面白かったですし、あぁ議論の出発点になっている一次情報を押さえることは結局一番効率的なんだなと思ったことを覚えています。(世界中で議論されているのであれば、だいたい自分が読んでもわかる内容なのだろうなと思えるようにもなったのもこの時期でした。)
5.そして今
卒業後しばらくしてボスに勧められたサイエンス系の本や古典を読む機会があり、「ヒトも組織も数千年変わってないんだな」と思うことが多くなりました。今は新しい本に飛びつくことよりも、歴史や宗教、サイエンスといった本を読むことが多いです。読書の視野を広げる一つのきっかけとして2016年当時のボス(部長)から勧められた本4冊を挙げておきます。2冊はサイエンス、1冊は歴史、1冊は宗教ですね。「新田次郎、吉村昭、遠藤周作」が好きというこの方の選書は自分にもズバリでした。
普遍性繋がりで最近は科学者が書いたサイエンス系の本もよく読むようになったのですが、イタリア人科学者による下記のベストセラーはめちゃ面白かったのでビジネス書に飽きた方は是非と思います。「宇宙のどこにも普遍的な『時間』という概念はない」など、自分の価値観を揺さぶられるような本でした。映画「インターステラー」が刺さった人などは是非。
6.最後に
自分の読書遍歴と言うにはあまりに簡略化した内容でしたが、自分の読書経歴を振り返ってつくづく思うのは「良い本を読むことは自分の人生を考える上でも、人と意見を交換していく上でも非常にコスパが高い」ということです。問題は「良い本をどう探すか」ということなのですが、やはり今のベストセラーよりも世界中で読まれ継がれてきた、古典や準古典を読むのがベーシックなのでしょうね。Googleのページランクのように引用数で本をランク付けすれば、(それが現代であっても)間違いなく古典・名著が上位を占めるのでしょう。最近は「光文社古典新訳文庫シリーズ」や「100分de名著シリーズ」などを読むことが多いですが、読書体験の積み重ねだけでなくその後の引用を見る機会の多さとしてもすごく濃い経験ができている(≒体感としてのコスパは高い)ように思います。
あと初対面の人や飲み会等で好きな本を聞いて読んでみること等も、話が広がって楽しいですね。(なぜか「よく本を読んでいる≒勉強熱心」みたいに好意的に受け止められることも多いです。)何か気になったワードがあればそのことについて書いてある本を探して読んでみるのも世界が広がって楽しいことですね。
もっと最近は「英語版のほうがめちゃ安いやん」と思うことも多く、英語版の本を読みたいと思いつつ積ん読が溜まっています。下記は憧れのハンナ・アーレント「全体主義の起源」原書ですが、翻訳本は5,000円もするのに原書は1,200円で思わず買ってしまいました。難解でいつ手を付けられるかわかりませんがいつか読んでみたいと思います。
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※本の紹介
◆読書について (光文社古典新訳文庫) ショーペンハウアー https://www.amazon.co.jp/dp/B015F4CCQA/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_in1eEbQCEXRJS
「あれこれ読書ばっかりしてても時間がなくなるだけなので、時代を超えて読まれる本をよく選んで自分の頭で思考する時間をしっかり持ちなさいよ」という、1851年の本です。今風に言えば思考だけでなくアウトプットや行動が加わるのでしょうか。170年前と思えない普遍性と簡潔さで大変読みやすいです。本書の言葉を借りれば、「稼ぐための本」でないからかもしれません。古典は時間とお金のコスパが高いですね。
◆火花 (文春文庫) 又吉 直樹 https://www.amazon.co.jp/dp/4167907828/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_6n1eEbJ5Z59XR
全然ビジネス書じゃないのですが、たまにこういう純文学を読んでめちゃくちゃ胸を締め付けられることもあります。思い返すと小6で「こころ」を読んで以来、たまにこういう感情を揺さぶられる読書・映画体験はありますね。Netflixのドラマもめちゃくちゃ好きでした。