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90年代、親父と僕とIt's a SONY.

突然だが、誰しも鮮明に覚えている幼少期のワンシーンというものがあるのではないか。

僕にとってその一つが90年代後半のアメリカでのある出来事だ。
※筆者は1990年生まれの31歳

前フリだが、今思うとうちの親父はガジェットが好きな人だった。
今でこそ幼稚園児でもiPadでYouTubeを見る時代になった。
しかし、90年代前半、幼稚園児にMacintosh(漢字Talk)を触らせていた家庭はまだ珍しかったのではないだろうか。
家族写真も90年代にデジタル化されていたし、親父も兄弟もG-SHOCKなんかも集めていた記憶がある。

親父とぼく(1994年)

小学校低学年の頃、そんなガジェット好きな父と、母と3人の家族旅行でラスベガスに行ったことがある。
コカ・コーラ博物館やグランドキャニオン、ハリウッドのユニバーサル・スタジオなどに行ったはずだ。

そうそう、ユニバーサル・スタジオは小学生の自分は映画もよくわからないし、英語で何言ってるかわかんなくて退屈だった。ETがかろうじて僕を「りょーうすけーぃ(亮介)」と呼んだような呼ばなかったような。

その他に覚えているのは、親父は普通にそれなりの大学を出ているのに何故か全然英語が話せなくて、「カメラプリーズ!!(カメラください)」と言いながらアメリカ人に話しかけて、写真を撮ってもらっていたことだ。

さて、親父はその旅行に、発売されたばかりのSONYのハンディカムを持って行っていた。機種は知る由もないが、miniDVかなんかだと思う。

ある時、親父がハンディカムを構えてビデオを撮っていると親父がみるみるアメリカ人達に取り囲まれた。
アメリカ人達は「Cool!!」とか「Small!!」とか「JAPANESE???」といった、小学生の僕でもわかる単語で「なんだよそのハンディカム!!小さいな!!日本製だろ?すっげぇ!!」と嬉しそうに話しかけていた。

英語が話せない親父はアメリカ人達にそのハンディカムを見せつけ、誇らしげな表情で言い放った。

「Yes,It' a SONY!!」

と。

アメリカ人たちは更に歓喜していた。

ただそれだけの話なのだが、このエピソードは20数年が経った今も強烈に脳裏に焼き付いている。

その後、親父は「こっちにはまだ売ってねぇんだよ。日本のSONYはガイジンからしたら凄いんだぜ。」というようなことを話していたと思う。
僕も外人たちの興奮した様子を思い出し、SONYって凄いんだな、日本人って凄いんだな。なんて日本人であることが子供ながらにとても誇らしく思えた。

そんな感じでMade in JAPANはすげぇんだ!と言っていたところから、その後わずか10年ほどでその誇りは音を立てて崩れ去った。
更に時が経って20年後、大人になった僕はHWスタートアップにいる身として日本の誇りを背負うくらいのつもりで「Made in JAPAN」を貫いていた時期があったが、海外展示会で「Made in JAPANだぜ」となんて言っても別になんの反応もないというのが実際のところだった。

そらそうだ。
もはやどこの国で作られてるかなんて、誰も気にしないし、そもそもガジェットの新製品もリークに次ぐリークで、製品発表会は単なる答え合わせの場になってしまうような時代じゃないか。

だが、そんな時代を生きるからこそ、SONYが一世を風靡していた時代のこのエピソードを思い出して改めて思う。

人生で一度でいいからあの頃のSONYのように人々を熱狂させるようなプロダクトを作ってみたい。

Yes,It’s a SONY!!

に変わる何かを。いつかきっと。

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