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喜んで受け取ってもらえるもの

以前の投稿で紹介したレスキュー・ハブの坂本さんが歌舞伎町の夜回りをするときに、

かばんに詰めていくグッズを見せてもらった。
クナイプのハンドクリーム、
ロクシタンのアルコールジェル、マスクケース。
汗拭きシート、ちょっといいシャンプー。

え、かわいい。

メッセージが印刷されたクナイプのハンドクリーム Everything will be fine.

クナイプのハンドクリームには、
「Everything will be fine./きっとうまくいくよ」
のメッセージが印刷されている。
これ特注で作ってもらっているんですか?と聞くと、こういうパッケージの既製品バージョンがあるそうだ。1個300円ぐらい。
ロクシタンのグッズは、同社のCSR部門から寄贈されたもの。
「ティッシュなんか絶対受け取ってもらえませんからね。」

これらのグッズを透明の袋に入れて、連絡先カードを同封する。レスキュー・ハブのカードと、協力関係にある「妊娠SOS新宿」のカード。

その他にカバンに入れているのは男性用GATSBYの制汗シート。なぜメンズ用品?
これは呼び込みで女性たちと一緒に立っている男性スタッフに渡すもの。先に男性に渡すと、横に立つ女性へのアプローチがしやすくなる。私は支援の人間で、他店からの引き抜きの人間ではないですよ、と説明するため。信頼関係を築くのに役立つそうだ。

グッズの購入費用はレスキュー・ハブへの寄付金でまかなわれている。
居場所に来る子たちに出すお茶やお菓子もある。
食品の支援はしているのかと尋ねると、フードパントリーから提供された食べ物を並べて自由に持って行ってもらったこともあるそうだ。
ただ保管場所や賞味期限、処分の問題もあり食品寄付の受け入れは難しい。

それ以上に、服の寄付も難しい。
他人のお下がりは着たくない子もいる。
歌舞伎町に自分の意志で来る子たちは、「相対的貧困」の下にある。どんな服でもありがたい、という訳にはいかない。
そりゃそうだ。着るものぐらい、というか着るものこそ自分で選びたい。

拠点ができる前は、手渡しするグッズの袋詰め作業は、夜回りに出る前に坂本さんが喫茶店のテーブルでやっていた。そういう作業のお手伝いだったら、いくらでもできそうだが、丁寧に、カードが裏返ったりしないように袋に入れてワイヤーで止める、簡単なようで気持ちを込めた作業を説明し準備するのも面倒そうだ。

渡す品物の選定、包み方、メッセージカード、渡し方、自分が大事にされていると感じられるかどうか。すべてに坂本さんの夜回りの蓄積がある。そして坂本さんが渡したいのは、物ではなくてつながりだ。

またもや「共感力とボランティア精神あふれるおばちゃん」の役割は、裏でお金をどんどん寄付するしかないのだろうと思う。


東日本大震災の直後に支援拠点となっていた東北の教会で、地元の方々が自由に取りに来る食品を小分けにするお手伝いをしていて、どれぐらいの量で詰めたらいいですか?と現地リーダーに聞いた時に、「自分がもらってうれしいなと思う感じで詰めてください!」と言われ、そうかそうかと作業の手を進めたことがある。

その時は、自分がもらってうれしいものの想像は難しくなかった。こちらも家庭の主婦なので。

でも、歌舞伎町に立っている女の子がどんなものを嬉しいと思うのかは、かなりの想像力を働かせないと難しい。
そしてその想像はたぶん見当はずれだ。
プロの経験にお任せした方が絶対に良い。


夜回りに出る坂本さんの5メートル後方について見学させてもらった。
22時過ぎの大久保公園の周りには、ぽつりぽつりと女の子が立っている。
坂本さんは3人の女性に声をかけ、うち1人が支援グッズを受け取っていた。
ガールズバーが立ち並ぶ通りでは、3人一緒に呼び込みをしている女の子のうち2人が、「やったー、いいんですか?」と言いながら受け取った。
トー横の中央通りの真ん中でコスプレ姿で看板を持っている女の子も受け取り、代わりにガールズバーのチラシを坂本さんに渡していた。

無料案内所の前で案内をしている中年男性スタッフは坂本さんの知り合いらしく、坂本さんが挨拶してGATZBYの制汗シートを2つ渡した。
坂本さんが通り過ぎてから、その人は後輩らしき男性と言葉を交わし、制汗シートをそのまま後輩に渡していた。
坂本さんが何をしている人か、説明しているようだった。

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