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秘書サービスの松・竹・梅

秘書論三部作を世に(noteに)出してから、このテーマで講演やコンサルティングをする機会を何度かいただいた。予想していなかった展開である。秘書の心得を説く人はいても、秘書にサポートされる側の心得についてはあまり語られてこなかったのかもしれない。

講演を聞いてくださったのは、キリスト教団体スタッフ、クリスチャン社会人、牧師・牧師夫人、教会役員など。そして参加者が特に関心を示したのが、秘書サービスには松竹梅の3段階がある、という話だ。これは私の経験に基づく独自の理論であるが、秘書の導入を検討する入口として役立つと思われるので、ここに公開する。

秘書サービスの松竹梅を説くにあたって大事な前提は、これが秘書の経験・能力レベルの上下とは関係がない、ということだ。食事をするときには目的に合わせて、フルサービスの料亭に行きたいのか、天ぷらやステーキの専門店に行きたいのか、早い美味い安いチェーン店に行きたいのかを選ぶ。それと同じように、秘書のサポートを得る本人がどれぐらい忙しいか、対外的にどのように見られるのがふさわしいか、どこまで他人に任せたいかによって、秘書のサービスレベルを選択するのだ。

早い美味い安いチェーン店は、素人には運営できない。良質なサービスを安定して提供するオペレーション「梅コース」の秘書業務を担うのは、経験豊富なベテラン秘書が適している。これに対して、カスタマイズされた秘書業務の「松コース」は、秘書を使い慣れた役職者のもとで1対1で仕事をすることで覚えていく、新人秘書に向いているとも言える。

さて、まずは松コース。こちらは社長、学長、組織の代表など、内外の多くの関係者に対して決断事項を迅速に伝える必要がある人に向いたサービスだ。Yes/Noを伝えるだけで多くの業務が進んでいくこのような人の秘書、エグゼクティブ・アシスタントは、本人が持つ情報のほぼ全てにアクセスできることもある。予定やアポイントの管理だけではなく、一定範囲の事柄は本人に相談しなくても進められるように権限が委譲されていたりする。

次の竹コースは、どのようなメニューが食べたいかが明確に分かっている、第一線でチームを率いるリーダーにおすすめしたい。自分で時間をかけられない・かけるべきでない業務を切り分けて、秘書に依頼する。部署のメンバーには仕事を割り振れても、自分に属する雑務は抱え込んでしまう管理職は多い。優先して自分の時間を使うべき業務は何かを整理して、秘書を活用することは、マネジメント能力の向上にもつながるだろう。

最後は梅コース。このサービスは、若手プロフェッショナルに利用してもらいたい。専門職である自分にしかできない業務に集中するため、それに付随する事務作業を部分的に秘書に依頼する。このようなサービスを提供する秘書は表に出ることはなく、完了した作業は依頼した本人の手に戻り、本人の責任で関係者に提供し、質問にも本人が答える。リクエストの受付や納期を管理するシステムを構築すれば、少人数の秘書で何十人をもサポートできる。そして、どのような依頼の仕方をすれば効率的なサポートを得られるかを体得した若者たちは、専門職としても将来のリーダーとしても、周囲と良いコミュニケーションができるように成長するだろう。

秘書を持つなんてぜいたくだ、と考える人の多くが、松コースの秘書をイメージしていることが多い。しかし、その働きの場で必要とされるのは、仕事を抱えがちなチームリーダーの業務の一部を引き取る人や、現場の専門職たちが本来の業務に集中できるようにスポット的に手伝う人かもしれない。梅コースの秘書であれば、パートタイムやボランティアで十分な場合もある。

秘書をテーマにした講義で質疑応答をしていると、だんだんと「教会とは何か」「牧師とは何か」「教会役員とは何か」といった本質に踏み込んでいくことがある。秘書の松竹梅を考えることを、あなたの仕事の本質・組織の本質・マネジメントやリーダーシップの本質を考えるきっかけにしていただきたい。




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