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世界は怖くない
生きている間に拝金主義がぶっ壊れていく様子を見たい
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ビルの解体工事の現場を眺めていた。恐竜のようなクレーン車が器用に骨組みを破壊していく。機械と人間のはざまのような生き物に見えて、ちょっと怖くなった。別の恐竜は大きな柱のようなものを咥えて丁寧に周辺の瓦礫を寄せ集めていた。目と口のようなものが見えたら、もうずっと生き物に見える。見慣れると、だんだん怖さは薄らいでいく。作業員らしき人たちが、粉塵が舞わないように長いホースを使って水をかけ続けている。外は寒くて仕方ないけれど、空だけ春めいていた。
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歩道を歩いていたら、自転車に乗ったおっさんに肩をぶつけられた。ダッシュで追いかけようとしたら、赤信号なのにその自転車はフラフラと進んでいった。人間じゃない奴が乗っていたのかもしれない。しかし人間とは何なのだろう。生きているのに死んだような表情を見ると怖くなるのはどうしてだろう。
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機械になりたくない。
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もうだいぶ古びた商業施設。その中に入っている小さな眼科に入る。ものすごく狭いスペースだけれど受付の人も先生も優しいから、待合室で皆のんびり待っている。保険証を出そうとしたおばあさんに急がないで大丈夫ですよと受付の人が声をかけている。真新しくはないけれどそこに根づいているもの。どこにいても根づいている感覚がずっとないから、羨ましい。
「引越すので最後になります。お世話になりました」
「先生にお伝えしましょうか?」
「いえ、いいんです。でもお世話になりました」
「伝えておきますね」
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正直、コミュニケーションという言葉があまり好きではない。行き過ぎて浮ついて根拠のない響き。そんな大それたことでもないくせに、と思う。だって、ただ、わかってほしいだけなのだ。何もなくても、ここにいられなくなっても、いてよかったですか、大丈夫でしたか。機械ではないんです。わたし、よくわからないまま、だけれど毎日必死に人間をやっているのです。それだけでいいですか。もう少しゆっくり歩いていいですか。焦らないで大丈夫でしょうか。
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この世界は怖くないんだよと毎日言い聞かせている。