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#1揚げ物と芍薬、藁とバームクーヘン

03-12
九州から母の真心が届いた。ミートソース、きんぴら、煮物、餃子とどっさり。ほぼ同じ時、愛犬の体調が悪いと連絡が入る。母からは苦しそうな愛犬の様子が。父からはダメージを受けている母の様子が届いた。悲しい。1日が変わらず過ぎていき、自分が思いの外平気なことが何より悲しい。「ともに暮らす」という物理的交わりが気持ちへ与える大きすぎる影響を感じる。
玄関に置きっぱだった水のダンボールを引きずりながらようやくキッチンへと移動させた。

03-25
親友と半年ぶりに会った。10年近く親交のある彼女たちと、半年も会わなかったのは初めてかもしれない。フォアグラのリゾットが美味しくて、3人で2つ頼んだ。別れ際、親友は驚くほど自然に「おめでとう」と小さなバースデーカードをくれた。帰って読んだ後「ありがとう」と連絡を入れるのが仰々しく思えてしまうくらい何気なく。プレゼントに「添えられた」手紙ではなく、手紙(言葉)だけを贈られるのは久しぶりで嬉しかった。私は彼女と一緒に大人になれて幸せだ。

花を贈られるときと、手紙をもらうとき。
音は違えど胸のおんなじ場所が高鳴る。

ホワイトデーに父から届いた薔薇の花束


03-26
始業10分前に飛び起き、顔も洗わずPCの前に座った。ちまちまと休憩を取り、夜もなかなか終わらなかった。自己啓発アレルギーの私が「マルチタスク」と検索窓に入れた日。向上心ってのは、どんな人間にも少なからずあるもんだな。

最近、Netflixの「三体」を見始めたんだけど、残業後の夕食どきにSFと呼ばれる類はヘビーでより疲れた。ただなぜだか、大好きだったラブロマンスもヒューマンも、今の私の生活とは馴染みが悪く、最近はついSFかコメディかに手が伸びる。

03-27
眠ろうとベッドに入り本を読んでいると、彼から12時頃に電話をしたい、と連絡が入る。1時間後かあ、と思った。彼との歴史の中で発症した私の「待つアレルギー」を恐らく彼は知らない。「寝ちゃうかも」と返信し、目を閉じてるうちに電話が来たらでよう、と。もちろん着信音で目覚める訳がなく、罪悪感でキリキリとしながら翌朝を迎える。新しい時間をたくさん持つうちに色んなことが塗り替えられ、体質が改善するかもしれない。なんて都合の良いことを、花粉症相手にKO寸前の私は考える。

瑞巌寺の杉並木


03-28
ゴミ捨てや洗濯時を除き、もう3日外に出ていない。キッチンに置いてある丸テーブルに座り、朝から晩までPCに向かう。終業後は社用から私用PCに切り替えてNetflixを観ては本を読み、気づいたら夜も良い時間で1日が終わる。昨日と今日の私がちがうと言えるか不安になる。爆食によりニキビが2つ増えて、鼻根にはメガネの跡がついている。せめてもと部屋を綺麗にし、本を1冊読み終えた。
本谷有希子さんの『異類婚姻譚』、寓話だ。個と個であり続けることの難しさにゾッとした。反面、他人を知り尽くすことの不可能を忘れて驕傲になっていないかと自分に問う。もちろん、成り代わることもできないのだよ、と。相手に選択肢を与え続け、私も選択し続けたいし「一緒にいる」という平易な言葉に思える行為の意味を履き違えないよう、蛇と芍薬と揚げ物をいつも片隅に持っておこう。

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