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お金持ちになりたかった頃のお金持ち像は解像度が低かった

20代の頃、お金持ちになりたかった。

当時の私は、月の手取りが10万円を超えると(今月はすごいぞ!)と喜んでいるような低所得の暮らしをしていた。
一人暮らしの築30年を過ぎたアパートの家賃を払い水道光熱費を払うと、ご飯は毎日食べられても、遊びに行くお金は残らなかった。
図書館で本を借りては、妄想にふける毎日だった。

あの頃の私のお金持ち像はこういうものだ。
旅行に行くときはファーストクラスに乗って、
1人1万円を超えるような高級な料理を食べて、
野球をバックネット裏で見るような人たち。
それがお金持ちだと思っていた。

ファーストクラスに乗りたい!
高級な料理を食べたい!
バックネット裏で野球を見たい!
いつかお金持ちになってこの願いを叶えようという思いが働くモチベーションになっていた。


その後、まともな会社に就職をして、東京に転勤となった。
生活に少し余裕が生まれた私は、ある年の誕生日に、憧れていたお金持ちの生活である「バックネット裏で野球を見る」に挑戦をした。

忘れもしない、東京ドームの巨人-楽天戦。
事前に有楽町のチケットぴあでチケットを買った時から、楽しみで楽しみでたまらなかった。
先発は巨人がエース上原、楽天が元近鉄の朝井。
最高の組み合わせだ。(私は元々近鉄ファン)

試合は、初回から楽天の一塁手のまずい守備の隙をついた巨人が打者一巡の猛攻を食らわせ、序盤で勝敗の行方は見えていた。
楽天の勝利を早々に諦めた私は、気づいてしまった。

私が買った憧れのバックネット裏の席。
チケットぴあで買える一番高い席を買ったはずなのに、もっといい席で試合を見ている人がいるのだ。
彼らはどこでチケットを手に入れているのだ!?


その後、わかったこと。
東京ドームの巨人戦の座席は年間指定席で多くが買われていること。
一番いい座席は年間指定席で全て売れており、一般販売はされていないこと。
年間指定席を持っている人は継続で購入するため、いい席を新規で購入するには順番待ちが必要なこと。
お金があっても買えない席があるという現実を、その時に初めて知った。

その頃には、他のことにも気づいていた。
ファーストクラスどころか、プライベートジェットを持っている人もいること。
高級な飲食店の中には、紹介がないと予約すらできないところがあること。

かつて私が思い描いていたお金持ちは、お金で買える高いものをたくさん持っている人だった。
でも本当のお金持ちとは、お金があるだけではなく、特別なものを手にするための人脈や繋がりを持っている人のことを言うのだ。
お金を持っているだけでは手に入らないものがある世界の存在が、ようやく見えてきたのだった。


お金のなかった20代の頃はお金持ちになりたかった。
当時は意識していなかったけれど、お金持ちになったら欲しいものが何でも手に入ると思っていたのだと思う。
でも、お金があっても手に入らないものはたくさんあると気づいた結果、お金持ちになりたいのかどうか分からなくなってしまった。

お金がなかった時代には、存在すら知らなかった世界。
お金を手に入れるだけでは、その世界の一員にはなれない。
人脈を探してそこに行きたいと思うほどの野心はなかった。

お金がない時には、ただ上を見て、上を目指していた。
何も考えず、上だけ見ていれば良かったから、楽だった。

今は、今見える範囲の一番上を見ても(あそこは私の居場所ではないな)と感じてしまう。
居心地が悪い思いをする自分が容易に想像ついてしまう。

でも、今よりももう少しだけお金持ちにと思っても、なんか中途半端な気持ちでいるような感じがしてしまう。
じゃあ、今のままでいいのかというと、もう少し生活の水準を上げたい気持ちもある。

もっと野心や欲望があったら、もっとお金を稼ぐことに一生懸命になれたのだろうか?
自分でも何をしたいのか分からないまま半端なまま、じわじわと時間が過ぎていく。


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