患者さんを捉える ーある膝蓋大腿関節痛を呈した症例ー
内容は、専門用語バリバリのRPT向けです。
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
20代の男性。学生時代の部活中に左膝を打撲する。その後、痛みが強くなり近医整形外科を受診するがレントゲン上で問題なく、診断名は膝関節症とされ様子を見ることにした。痛みは徐々に減少し、階段の降時に痛みが出現する以外は問題がなくなった。 しかし、階段の降時の痛みが消失されずに5年経過して現在に至っている。理学療法士としては、治療法を見出すために評価分析を行った。
膝に痛みが起こる時期
下の写真Aは痛みが起こる左下肢
写真Bは写真Aと同時期の右下肢
Q) どのように考えるか?
A) 痛みの部位は局所であり、症例が指し示す部位から膝蓋大腿関節痛の可能性がある。
また、階段降時のみと限定された動作の痛みなので、この時、何らかのメカニカルストレスが起きている。
Q) 写真Aの左膝を観察すると見かけ上で内反膝なので、この時ベクトル上で膝蓋骨にかかる合力は内側に向かう。
よって、膝蓋骨と大腿顆部の圧迫は内側になるため、痛みは内側ではないか? 膝蓋大腿関節とは関係ないのでは?
A) 写真Aの状態の時、大腿四頭筋は遠心性に収縮しているので、膝蓋骨は大腿顆部を圧迫している。
この時、膝蓋骨に内側方向の力がかかると膝蓋骨は大腿顆部の面上を滑るように動く。
よって、膝蓋骨外側で大腿顆部と接触し痛みが起きてもおかしくない。
また、写真Aの左膝屈曲角度は60度ほどなので、膝蓋骨が大腿顆部と前額面上の圧迫される位置とほぼ一致する。
Q) すると問題になるのは、見かけ上で膝関節が内反していることになる。
写真Aの左下肢と写真Bの右下肢を比較すると、BではAほど見かけ上の膝関節内反はない。
この違いは何から起きているか?
A) 大腿四頭筋の筋力、触診、周経では左右差がほぼなかった。
よって、大腿四頭筋以外の問題である。
Q) それは?
A) 写真Aを見ると、足部では前足部荷重で体重支持している。
体重を支持するためには前足部剛性が必要である。
前足部剛性作用には、ウインドラス機構と距骨下関節の内返し作用がある。
ウインドラス機構は足底腱膜の緊張で起こり、緊張は足指の伸展で起こる。
伸展は実際、母指での可動性が高いので、母指方向に荷重させる。
また、内側縦アーチが高いと第一中足骨は底屈位になるため母指の伸展が大きくなる。
一方、距骨下関節の内返しの作用筋は足関節の内返し筋である。
Q) Toe inでは、前足部荷重はToe outに比べて外側になる。
また、膝を外側に持って行くことで、より外側荷重を強める。
そんなにも外側荷重にさせる理由は?
A) 足部の荷重方向は前外側下方であり、そこで体重を支えるためには後内側上方の床反力による釣り合いが必要である。
その作用を生み出すために足関節は内返しの力が必要になる。
これは距骨下関節の内返し作用筋と一致する。
よって、左前足部剛性には足関節内返し筋を優位に使用している。
逆に言うと、ウインドラス機構の使用が少ない。
すなわち、内側縦アーチの低下が疑われる。
Q) 評価では?
A) 左足部内側縦アーチの低下が確認された。
Q) アプローチは?
A) タオルギャザーを実施した。
Q) 結果は?
A) 痛みは消失した。
Q) 上写真のアプローチ前後の足位に大きな変化が見られないが?
A) ウインドラス機構が使えることで、足底外側荷重による距骨下関節内返し作用を優位にする必要がなくなり、膝関節外側位による見かけ上の内反肢位にしなくて済んだ。
Q) では、左Toe inの原因は?
A) 足部、足関節、下腿の内捻、膝関節、股関節、骨盤、体幹等、探れば問題が見つかる可能性はあるが、今回の目的ではない。
痛みが取れればそれでOKであり、それを調べるのは蛇足である。
Q) なぜ、このような事が起きたのか?
A) 痛みは受傷後に起きている。
よって、膝損傷と関係がある。
恐らく、痛みのために左足をかばった日常動作により左下肢の筋萎縮が起きた。
足関節内返し筋に比べて、アーチを形成する足底短関節筋は小さいので萎縮の程度は大きい。
それにより、足関節内返し筋による前足部剛性戦略をとった。
その状態で歩行に支障がないため、萎縮のままで過ごしてしまった。
逆に言うと、この筋力は自然には元も戻らず、アプローチの必要がある。
Q) 痛みが消失したので、EXは今回の1回のみでよいか?
A) 筋収縮により、一時的に活動するモーターユニットの数が増えた。
使用しないと元に戻る。
しばらくEXの継続が必要である。
但し、無意識での階段降時に、ウンドラス機構を優位に使用していればEXは必要なくなる。
以上
最後までお読み頂きましてありがとうございます。