患者さんを捉える -体幹伸展・後傾や長距離歩行で腰痛が出現する症例 後半-
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
20代の男性。体幹を伸展・後傾させると腰椎中頃に痛みが生じる。痛みは深層部にズキンとした痛みである。
また、長い距離を歩いていると、体幹伸展・後傾時と同じ部位に同様の痛みが生じてくる。
但し、下肢への痺れや放散痛はない。
診断名は腰椎すべり症である。
既往で、小学生の時にオスグット-シュラッター病と診断される。
整骨院ではオスグットによって腰椎すべりが生じたと言われた。
アプローチとして
すべり椎体以外の腰椎の伸展可動域拡大による可動の分散
椎体すべり抑制筋の緊張亢進
骨盤前傾作用筋の抑制
以上により可動域拡大と痛みが減少した。
Q) では、歩行との関係は?
A) 痛みの原因は腰椎伸展と体幹後傾による腰椎すべりと過可動であった。
それを踏まえて歩行を観察する。
Q) 観察のポイントは?
A)
①体幹の後傾
②腰椎の伸展(これは骨盤の前傾で生み出される)
③立脚初期に起こる床反力による衝撃を吸収するシステム
問題は腰なので、下肢の吸収システムを見る。
Q) どうだったか?
A)
①体幹は常に後傾していた。
②骨盤前傾の歩行周期の変化は見いだせなかった。
③IC~LRで膝関節屈曲がほとんど行なわれなかった。
※この時期に膝関節を屈曲させることで、床反力による衝撃の一部を膝で受け止める。
Q) なぜ、IC~LRで膝関節が屈曲しないのか?
A) 小学生の時のオスグット-シュラッター病により大腿四頭筋の収縮を避け、その歩容が身についたと考える。
Q) 歩行時、体幹が常に後傾しているのは?
A) 腹部筋が背部筋より優位だからである。
ちなみに、優位とは、使いやすい、すなわち背部筋より筋力がある。
Q) なぜ、腹部筋が優位になったのか?
A)
・体幹後傾は腰椎すべりを助長する肢位なので、腰椎すべりと関係ない。
・体幹後傾は重心が後方になり、LRでの大腿四頭筋の負荷を増し、オスグット-シュラッター病には悪影響である。
・オスグット-シュラッター病により、大腿四頭筋を活動させないために、立脚初期に膝関節の屈曲を避けるため。
通常、IC~LRのヒールロッカーでは、踵の転がりが重心の前方移動より速いため、下腿の前傾が速く起こる。
それにより膝関節は屈曲する。
そこからスムースなアンクルロッカーに移行する。
スムースとは、歩行速度を落とさないことである。
ここで、重心を後方に維持させると、下腿の速い前傾がやりにくくなる。
それにより、膝関節の屈曲は少なくなる。
症例は全身を使ってオスグット-シュラッター病による膝の痛みを避けていた。
それが仇となり、腰椎すべりが起きた。
整骨院の先生が言われる通りであった。
Q) アプローチは?
A) 立脚初期は大腿四頭筋中の広筋群が活動するので、評価で萎縮が見つかれば、その筋を強化する。
Q) 評価では?
A) 主に内側広筋の萎縮が確認された。
Q) アプローチ法は?
A) 内側広筋は大内転筋とつながるので、膝関節伸展から股関節内転の運動を行なう。
Q) ここで、症例の大腿直筋は短縮していた。なぜ?
A) 大腿直筋はPSw~ISwで活動し、LRでの膝関節屈曲保持にはあまり関与しない。
LRで広筋群が使われなくなり萎縮がおき、その対応として大腿直筋が活躍した。
あるいは、
日常では大腿四頭筋中の大腿直筋を主に使い、広筋群を萎縮させて、歩行のLRで膝関節屈曲をやりにくくした。
以上より、大腿直筋の短縮は、過活動による緊張からの短縮である。
いずれにしても、広筋群の強化によるLRでの膝関節屈曲が行なわれれば、大腿直筋の緊張は勝手に下がる。
Q) 歩行の腰痛は、床からの衝撃と体幹後傾であることがわかったが、広筋群の強化による膝関節屈曲で衝撃は減るが、体幹後傾は変わるのか?
A) そもそも体幹後傾は、オスグット-シュラッター病による膝痛を避けるための対応である。
成人した現在、オスグットによる痛みはなく、ただ、小学生からの歩行の癖が残っているだけである。
広筋群の使用で膝関節が屈曲すれば、体幹の後傾は膝屈曲作用の妨げになる。
身体は、エネルギー消費を抑える動きを取るので自然と変わる。
Q) もしも変わらない場合は?
A) 腹部筋の優位性が邪魔している。
背部筋の収縮を高め、腹部と背部の筋のバランスをとらせる。
日常生活の中で、膝蓋腱への負荷が大きく、大腿四頭筋中の広筋群が最も使われるのが歩行であることがうかがえる。
歩行の観察は、その人にとって不都合かどうかで見るべきと考える。
教本的な正常歩行の知識は考える手段として必要である。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
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