手首の痛みが体幹に関係した症例
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
1年ほど前から重量物を持って引っ張ったときに、右手首にズキンとした痛みが生じる。
痛みの部位は、舟状骨で圧痛もある。
Q) 原因は?
A) 負荷のかかる動作で起こるので、筋の作用と関係する。
Q) 何筋か?
A) 舟状骨に付着する筋は、短母指外転筋である。
短母指外転筋の作用は、母指のCM関節の掌側外転とMP関節の屈曲である。
Q) 動作と短母指外転筋の作用は一致するか?
A) ベッドを持ち上げる動作では、手でベッドを掴むために母指のCM関節の掌側外転とMP関節屈曲の動きがある。
ここで、痛みは重量物を持ち上げた時であり、これは、重量物のぐらつきを固定するための短母指外転筋作用である。
要するに、短母指外転筋の過収縮で起こる。
また、短母指外転筋は、舟状骨以外に大菱形骨や屈筋支帯にも付着していることから、筋自体の痛みと言うよりも
短母指外転筋の過収縮により、舟状骨が偏位し、月状骨との圧迫や剪断、あるいは靱帯の伸張痛の可能性がある。
また、圧痛もあることから、組織の微細損傷も起きている。
Q) アプローチは?
A) 舟状骨を固定するが、舟状骨を単独に固定するのは難しい。
そこで、別の視点で考えた。
Q) それは?
A) そもそも短母指外転筋が単独で過剰に働くことに疑問を抱いた。
短母指外転筋は、それ自体の母指への作用以外に、別の目的でも働いているのではないか?と考えた。
Q) それは?
A) 筋連結で考えると、短母指外転筋は胸筋群とつながる。
そして、大胸筋は腹直筋や大腿直筋とつながる。
そこで、体幹深層筋の低下に対応するために、短母指外転筋の緊張を高め、体幹表層筋の緊張で賄おうとしていたのではないか?と仮説を立てた。
Q) 評価では?
A) 腹部深層筋の筋緊張低下と下肢広筋群の萎縮が確認された。
Q) アプローチは?
A) 右体幹の深層筋の収縮を促すために、座位から体幹を左傾斜させる横揺れ運動を5分間実施した。
Q) 結果は?
A) 重量物の持ち上げ動作による痛みは消失した。
Q) 何故、体幹筋の促通を短母指外転筋と限られた筋で実施されたのか?
A) 教書では、大胸筋につながる手の筋は手根管と手根掌側面、また、鎖骨胸筋筋膜は舟状骨・大菱形骨、母指球筋とある。
これに当てはまる筋は、短母指外転筋である。
それに加えて、短母指外転筋の使用頻度、あるいは使用強度が多く、使いやすかった可能性もある。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
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