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患者さんを捉える -右肩関節拳上最終域で可動制限がある症例 後半-
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
20代の女性である。かなり前から上肢挙上の最終域で右肩に制限がある。
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既往では、学生時代に部活でバスケットボールの練習中に右肩を痛めた。
しかし、病院へは行っていない。
バスケットボールは小学校の中学年から行っていた。
また、症例は右利きである。
原因は、肩甲下筋、関節包、関節包内靱帯などの短縮であった。
よって、それら組織を伸張させた。
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結果、他動での可動域は拡大した。
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しかし、自動運動では変化がなかった。
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Q)なぜ?
A)他動で行えて、自動で行えないので筋の収縮が絡む。
Q)何筋が問題か?
A)他動の変化は、肩甲下筋中部線維やそれに付着する組織の短縮であった。
そこで、肩甲下筋に着目した。
Q)肩甲下筋がどう問題か?
A)筋の短縮は筋緊張による短縮と線維萎縮がある。
線維の萎縮は文字通り筋力が低下する。
Q)筋緊張は?
A)緊張は筋収縮をうまくコントロール出来なくなる。
これは目的を遂行する関節の動きができなくなるので、ある意味、筋の萎縮と同じである。
そこで、筋の収縮を促してみようと考えた。
Q)肩甲下筋と肩関節最終域の挙上との関係は?
A)前回のアプローチで、大結節が肩峰のアーチを十分に通過できる骨頭の動きは確保できた。
今回、自動運動で行かないとすると、骨頭を引き上げる力と引き下げてアーチを通過させる力のバランスに問題がある。
腱板筋は、その役割を担い、その中に肩甲下筋が含まれる。
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よって、問題であった肩甲下筋の中部線維の収縮力低下から、肩関節挙上の最終域で骨頭を十分に引き下げられず、可動域制限が起きたと考えた。
Q)アプローチは?
A)肩甲下筋の中部線維の収縮を促す。
Q)方法は?
A)2nd positionのスキャプラ・プレーン上で肩関節内旋自動運動である。
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意外と難しいEX
注意点は、骨頭を軸回旋させて、骨頭が前後に動かないように口答指示を含めて介助する。
但し、前後の動きを押さえては絶対にダメである。
あくまで、自身でコントロールさせる。
また、肩関節内旋運動に集中させるために外旋は他動にした。
上腕骨はスキャプラ・プレーン上なので、肩甲下筋と平行である。
よって、肩甲下筋が収縮しても骨頭がブレることはない。
ブレた場合は、他の肩関節内旋筋が働いたことになる。
また、大胸筋が働き易くなるので、介助者の手が肩関節が水平屈曲や下方に引かれた場合も他の筋が働いている。
Q)結果は?
A)自動運動で最終域まで可能になった。
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Q)なぜ、このようなことが起きたのか?
A)やはり、部活で肩を痛めたことが起因しているのではないかと考える。
Q)どのような?
A)肩を痛めたことから、肩関節を守ろうと肩板筋の緊張を高めた。
特に、肩関節内旋は、後方を関節包の伸張による固定でカバーできる。
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症例は若い。
若い分、動きが活発で身体の動きは多く、関節の隙間も大きいので、今回の程度で済んだ。
年が進むにつれて動きがパターン化され、身体の動きに制限がおこる。
また、組織の退行変性が起こり、関節の隙間も狭まくなる。
それが将来、肩関節周囲炎などの要因の一つになるのではないかと考える。
ここで、学生時代に肩を痛めたことが外傷ではない場合、小学生からのバスケが要因の一つと考える。
Q)それは?
A)子供はインナーマッスルが未発達である。
子供の時から激しいスポーツを行なうと、関節の安定化をアウターマッスルが担う事になる。
それは将来、関節の不安定を招き、損傷しやすくなる。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。