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患者さんを捉える -子供を抱きかかえると肘に痛みが生じる症例-
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
最近子供が生まれ、10~15分抱いていると、左肘にズキズキした痛みが出現する。
部位は左肘関節外側である。
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痛みは、前腕の中間位や回内位ではなく、回外位で出現する。
但し、圧痛はない。
既往として、3~4年前に左橈骨頭骨折で手術を施行した。
その後のリハでかなり改善したが、肘関節屈曲と回外に多少の可動域制限がある。
Q)原因は?
A)お子さんを抱いた時にピンポイントに出現するので、その部位のメカニカルストレスである。
Q)どのようなストレスか?
A)痛み部位にある組織として、側副靱帯、筋(腱)、関節(骨)がある。
側副靱帯、筋では伸張(内反)、関節では圧迫(外反)で痛みが出現することが考えられる。
Q)評価では?
A)内外反のストレステストでは、左内反でわずかに緩みがあった。
但し、痛みは出現しなかった。
ここで、症例は、お子さんを抱くような力を入れないと違和感がないとのことで、その状態に持って行って
(前腕回外位で肘関節屈曲筋の収縮を促すための抵抗運動をさせながら)
内外反ストレステストを実施すると、内反で痛み部位に違和感が生じた。
Q)この結果をどう解釈すればよいか?
A)内反ストレスといっても症例は力を入れているので、それほど内反方向に動かない。
よって、外側側副靭帯ではなく、外側上顆に付着する筋による伸張痛の可能性がある。
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AnneM,Gilroy 他著、坂井 建雄監訳、市村浩一郎 他訳:プロメテウス解剖学コアアトラス第2版より引用
そこで、同じストレステストで外側上顆に付着する手関節背屈筋を収縮させてみた。
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結果、お子さんを抱いたときと同様の痛みが出現した。
Q)お子さんを抱いているときは、肘関節屈曲・前腕回外位で手関節掌屈筋が優位に働くのに、何故、手関節背屈筋の付着部に痛みが出るのか?
A)痛みは前腕回外で出現し、回内では出現しない。
回内では、肘関節の骨がフィットして肘関節が安定する。
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J.CASTAING 他著 井原秀俊 他訳 : 図解 関節・運動器の機能解剖 上肢・脊柱編 より引用
そこから、肘関節の安定化と関係があるのではないかと考えた。
Q)どんな関係か?
A)肘関節の安定化に前腕骨間膜がある。
これは回外で緊張し、回内で緩む。
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ここで、骨間膜を補強するのに、掌側では長母指屈筋と深指屈筋、背側では母指の作用筋群や示指伸筋がある。
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もしかすると、肘関節安定化のための骨間膜緊張に対して、これら伸筋群が使用されていたのかもしれない。
Q)何故、わざわざ伸筋を使用するのか?
A)掌側の筋が低下しているからである。
Q)評価では?
A)深指屈筋は問題なく、長母指屈筋が低下していた。
Q)アプローチは?
A)長母指屈筋の収縮を5分間促した。
Q)結果は?
A)先ほどと同じ評価で、肘関節の違和感は減少した。
結果が出たので
1回/日、5分/回を1ヶ月間実施して様子を見た。
1ヶ月後、痛みは消失した。
Q)なぜ、長母指屈筋が低下したのか?
A)生活の中であまり使用してなかった。
今回の痛みが起きた推論
症例は、3~4年前の左橈骨頭骨折の手術で(切創部が肘関節の外側にあるとから)外側上顆に付着する筋への影響がある。
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肘関節外側に付着する筋で、関節安定化筋である回外筋も影響を受けた可能性がある。(未評価)
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J.CASTAING 他著 井原秀俊 他訳 : 図解 関節・運動器の機能解剖 上肢・脊柱編 より引用
また、生活の中で長母指屈筋があまり使用されず筋力低下が起きた。
これら安定化機構の筋が低下したため、背部の骨間膜に付着する手関節背屈筋群が活動した。
それら手背屈筋群の収縮を促すために、外側上顆に付着する手関節背屈筋群も収縮した。
外側上顆部がopeによる侵襲やその後の固定により脆弱化している。
そこにきて、今回の過使用で脆弱化した付着部への伸張ストレスで痛みが起きた。
以上のように過去の手術による影響が考えられる。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。