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息苦しさと頸部の張りがある症例
情報)
若い方である。
2~3年前から息苦しさ(吸気が入りにくい)を感じていた。
特に、お風呂に肩までつかると呼吸がしづらく半身浴になってしまう。
その後、頸部筋群が張るようになり、頸部全体がこわばり、上があまり向けなくなる。
今は、頸部前面から鎖骨部に張り感がある。
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Q) 原因は?
A) 吸気が行いにくいことから、呼吸筋の低下や胸郭の可動域の低下を疑う。
Q) そこで、姿勢を観察すると
立位では体幹がやや後傾し、後方重心であった。
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座位では胸椎下部を中心に後弯していた。
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ここから見えてくることは?
A) まず、座位では下部胸椎の後弯から、下部肋骨の挙上が減少する。
そのことで、吸気の最大作用筋である横隔膜の収縮による吸気量は減る。
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それを補うために呼吸補助筋を使用し、それが頸部の張り感を生じさせた。
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また、入浴で肩まで湯船につかると水圧で胸郭が圧迫され、肋骨の動きがより制限されたため、呼吸がしずらくなった。
Q) 何故、そのようなことが起きたのか?
A) 症例の立位は体幹後傾位である。
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この肢位で姿勢保持のために体幹に活動する筋は、腹部筋群である。
症例は、体幹では腹部筋群が優位に働き、姿勢保持、脊柱安定化に作用していた可能性がある。
Q) アプローチは?
A) 今回の訴えは吸気がしにくいことであり、それは、腹部筋群の優位性による下部肋骨の下制・胸腰移行部の後弯により、下部肋骨の挙上が阻害され、横隔膜の収縮による吸気量の減少にあった。
よって、要因は腹部筋群の優位性にある。
ここで、症例は若いので、姿勢保持に腹部筋群しか使えないとは考えにくい。
よって、腹部筋群の別の作用である脊柱安定化に注目すると、脊椎の屈曲角度が大きい胸腰移行部の脊椎安定化は横隔膜が担う。
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そこで、背臥位の脊柱後弯にならない肢位で、両下肢を曲げて骨盤を前傾位にさせないことで、腹部筋群による肋骨下制を押さえた状態で、横隔膜呼吸を5分間実施した。
このとき、セラピストは、下部肋骨の挙上と広がりが行なわれているか確認しながら行なった。
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Q) 結果は?
A) 吸気が楽になり、頸部周囲の張りも低下した。
アライメントは以下の通りである。
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○ 翌日、本人に会い状況を聞くと、症状は軽く、久しぶりによく眠れたとのことである。
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A.I.KAPANDJI 著 塩田悦仁 訳:カラー版 カパンジー機能解剖学 Ⅲ脊椎・体幹・頭部 原著第6版
中村隆一 他著:基礎運動学 第6版 補訂