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患者さんを捉える -左膝関節ACL術後にぶん回し歩行を呈した症例-
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
20代の女性。6年ほど前に左ACL損傷により手術と理学療法を施行する。その後、階段や高い段差の昇降時に内股にしないと昇降できなくなった。
歩行においても左下肢のぶん回しが出現した。
この階段昇降の現象や歩行のぶん回しは術前にはなかった。
今回、ぶん回しの改善について理学療法を施行した。
左右MSwの状態
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Q) 何が原因か?
A) 前額面後面の左MSwを見ると、大腿は床にほぼ垂直で下腿が内側傾斜している。(見かけ上の外反膝)
よって、この現象は股関節内旋筋で起きている。
Q) すると、股関節に問題があるのか?
A) 症例に股関節の既往はなく、股関節の訴えもない。また、股関節が問題となる跛行もない。
そして、症例は若く、通常の生活を送っている。
左膝の術後から起きているので、膝を中心に考えを進める。
Q) 膝の何が問題か?
A) ACL術後とすると、膝関節の不安定性が思い浮かぶ。
歩行時の関節の安定性が求められるは立脚期である。
そこで、左右の立脚期に注目して観察した。
Q) どのような状態か?
A) 左は右に比べて、knee inであった。
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Q) これは?
A) Knee inは遊脚期のぶん回しである股関節作用から股関節内旋で起きている。
この状態で膝関節を屈曲させると、膝関節は前内側方向に動く。
ところが、重心の移動方向は前方なため、膝関節には内反の力がかかる。
この内反の力によって腸脛靱帯に伸張ストレスが起こる。
LRでは腸脛靱帯の緊張で下腿の内旋や内反を抑制する
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LRでは膝の広筋群が働き、膝関節の安定化を担う。
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ゆえに、歩行周期で腸脛靱帯と広筋群の作用時期は一致する。
Q) まとめると?
A) 広筋群が活動する時期に、左広筋群の低下から膝関節安定化の対応の一部を腸脛靱帯に担わせ、広筋群の負担を減らしていた。
Q) 評価では?
A) 広筋群、特に外側広筋の萎縮が確認された。
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Q) どのようにして外側広筋を強化するか?
A) 外側広筋は腸脛靱帯に付着し、腸脛靱帯の近位では股関節外転筋に付着する。
そこで膝関節伸展から股関節外転の抵抗運動により、外側広筋を選択的に収縮させた。
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Q) 結果は?
A) ぶん回しは減少した。
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結果が出たのでホームEXとして実施してもらった。
Q) ホームEXの方法は?
A) 端座位で膝関節伸展から足部の外側で壁を押すようにする。
Q) 背臥位ではだめか?
A) 大腿直筋が働きやすくなるので座位で実施してもらう。
実施1ヶ月後、ぶん回しは消失したのでEXは終了にした。
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Q) EXを止めて元に戻らないか?
A) 腸脛靱帯に頼らない使用が出来ているため、普段の歩行の中で広筋群が十分に使われて萎縮は起こらない。
ここで見えてきたことは、関節に負担がかかる立脚期への対応として遊脚期でその準備をしている。
あるいは、股関節内旋筋を常に緊張させて不慮の問題に備えており、その緊張が体重がかからない遊脚期に出現している。
遊脚期の現象は立脚期の問題の一部を表面化させる。
それゆえ、遊脚期の観察は立脚期の問題を分析する上で、重要な要素の一つかも知れない。
但し、むやみに観察するのは得策ではない。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。