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右手が口元に届かない症例
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
高齢の方である。
既往に脊柱管狭窄症がある。
以前は歩行も可能であったが、現在は寝たきり状態である。
それでも車いすで食事は自立していた。
最近になって、それも行えなくなり、モチベーションが低下している。
そこで、食事動作の自立を目標に検討した。
座位ではスプーンが口元まで届かず、食事が行えない。
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臥位では口元まで手が届く。
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Q) 原因は?
A) 座位と臥位の上肢の違いを見ると、肘関節の屈曲角度の差が食事動作自立のカギである。
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Q) すると、上腕二頭筋の筋力低下か?
A) 上腕二頭筋にアプローチするも、翌日には元に戻る。
Q) 他には?
A) 上腕二頭筋と拮抗する上腕三頭筋の緊張が高い。
Q) 評価では?
A) 手指の屈伸を自動運動で行ってもらった。すると、伸展に比べて屈曲は弱かった。
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Q) これは?
A) 上肢伸筋の緊張が高い。
Q) 何故?
A) 筋連結では、上肢伸筋は僧帽筋等の頸部~上部体幹の伸筋とつながる。
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もしかすると、頸部~体幹の姿勢保持あるいは安定化をするための促通に使用している可能性がある。
Q) その考えで座位と臥位で手の運びが説明できるか?
A) 座位では、姿勢保持等に伸筋の緊張を高める。
臥位では背部は布団で守られ、伸筋の促通は座位より少なくて済む。
よって、臥位で伸筋の活動が減り、手を口元まで運べた。
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Q) アプローチは?
A) 脊柱の姿勢保持等を体幹の屈筋も使用させ、その分、伸筋の使用を減らす。
Q) 方法は?
A) 座位でのバランスを崩すことで、姿勢反射を利用して、体幹の前面筋群の収縮を促そうとしたが、伸筋が優位に働いてしまった。
そこで、末梢から屈筋群を促通した。
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そのようにした根拠は、姿勢保持あるいは脊柱安定化を抹消の伸筋から促通しているとすれば、屈筋についてもそれは可能と考えたからである。
Q) でも、座位でバランスを崩そうとすると、伸筋が優位に働いてしまうのであれば、脊柱の伸筋が優位であり、それが末梢に影響しているとも考えられるが?
A) 確かに、その可能性もあるが、実施してみないとわからない。
Q) 方法は?
臥位で、マジックペンの握りを休憩を入れながら5分間実施した。
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Q) 結果は?
A) 座位で右手が口元まで届いた。
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効果があったので、exを継続した。
現在、食事は自立している。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
引用文献
Thomas W.Myers 著 坂場英行 他 訳:アナトミー・トレイン 徒手運動療法のための筋筋膜経線 第3版 医学書院