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#192 「日本の建築」隈研吾

『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。

「日本の建築」隈研吾

はい、皆さんこんにちは、こんばんは。
いかがお過ごしでしょうか。

今回は、ある本を紹介したいと思います。
建築家の隈研吾さんが書かれた「日本の建築」(岩波新書・2023年)という本です。

この本は、ざっくり言うと日本の建築の特徴と系譜を記した本です。

それでは、早速本の内容に移っていきたいと思います。

関係性

本の序盤に、この本のキーワードが出てきます。
そのキーワードは、「関係性」。

ドイツの世界的建築家であり、初期のモダニズム建築のリーダーの1人である、ブルーノ・タウト(1880-1938年)は、来日した際に、桂離宮を訪問しました。
その時の様子を、自身の著作の『日本美の再発見』でこう記しています。

“この奇蹟の神髄は、関係の様式—いわば、建築せられた相互的関係にある”

“ヨーロッパの宮殿と、日本の「宮殿」との差異はどこにあるのだろうか。ヨーロッパの宮殿や城は、たとえきわめて小さいものにもせよ、いずれも階級を特示するという性格を帯びている。また宮殿の建設者は、庶民階級に対して、自己のもつ高い文化標準の規模を示そうとする意図を懐(いだ)いていた、—なるほどこのことは桂離宮にあってもまた同様である。しかしヨーロッパの宮殿には、宮廷生活と庶民階級との距離が著しく強調されている。確かに桂離宮にも、宮廷生活があった。けれどもここは、旧いヨーロッパに見られるような階級的距離はまったく認められない。”

はい。
これを受けて、著者の隈研吾さんは、こう記します。

“何がこの簡素な住宅を、それにもかかわらず特別なものと感じさせるのか。庭園との関係性がすべてであることを、タウトは見抜いたのである。形態ではなく、関係性こそが、豊かさの源だった。”

はい。
この一文こそが、この本の根幹になってくるところだと思いました。
日本の建築は、「形態」ではなく「関係性」。
建物それ自身ではなく、建物が生み出す関係性。
これこそが、日本の建築だという訳です。

この後、この「関係性」というキーワードを、様々な角度から切り込んでいきます。

関係性には、色々な解釈があります。
「建物と人との関係性」、「住んでいる人同士の関係性」、「建物と自然との関係性」。

それらの関係性を構築している日本の建築。
さて、どのようにして関係性を築いているのでしょうか。

小さく、弱い

隈研吾さんは、日本の建築の特徴を、「小さく、弱い」と表現しています。
建築で「小さく、弱い」と聞くと、何か頼りなさを感じますが、この「小さい」そして「弱い」という特徴こそが、先ほどのキーワード、関係性を生む上で重要になってくるんです。

まず、日本の建築と言えばこれ、「木材」ですよね。
それでは、木材の特徴を述べた一文をご紹介します。

“木造の細い柱は、コンクリートや鉄骨の柱と違い、薄い壁の中に消去することができた。日本では柱を消去する技法が徹底的に追及され進化を遂げていた。それを可能にしたのは、柱以外の補助的な部材、たとえば方丈や火打ちと呼ばれる斜めの部材、柱と柱の間を埋める土壁・格子・障子・襖のような、まったく構造を負担していないように見える華奢な部材が陰で助けあって建築を支えるという、世界にも類を見ない繊細なエンジニアリングであった。それらの細くやわらかな部材は、柱や梁(はり)を一次部材と呼ぶのに対し、二次部材と称される。これらの二次部材の共同作業が見事に建築を支え、地震や台風から、この一見きわめて弱そうな建築を守ってきたのである。それは西欧流の「大きな構造設計」とは対照的な「小さな構造設計」と呼びうる繊細なシステムであり、モダニズムが成し遂げた構造体と外壁の分離のはるか先を行く、ハイブリットで重層的なシステムだった。”

はい。
日本の木造建築は、木材と言う「弱い」一時部材を支える、土壁・格子・障子・襖のような二次部材の融合、つまり、「弱い」部材たちの融合によって、「強い」建築へと導きあげる、繊細なエンジニアリングだ、と述べています。

これは、コンクリートや鉄骨といった、もともと強い物質で建築を作り上げる西欧流の考え方とは違う、そういうことですね。

弱い物質の関係性によって建築を作り上げるという考え方こそが、日本の建築だということです。

中間粒子

それから、もうひとつおもしろい考え方が出てきます。
「中間粒子」。

それでは、一文をご紹介します。

“日本建築を構成するエレメントのほとんどは、その中間性・両面性を持っている。それゆえにこれらの中間粒子は、変化し続ける人間という要素と、環境という、同じくらい変化し運動し続ける要素との間にあって、それらを巧みにつないできた。日本建築の本質は中間性であり、両面性である。”

はい。
日本建築の構成要素のほとんどは、中間性、そして両面性を持っている。
例を挙げましょう。
例えば襖。襖は、プライベートな空間にしたいときは間仕切りになり、大勢の人たちで集まりたいときは収納されます。
これは、まさに、空間演出において、両面性をもっていると言えます。

このように、日本建築の構成要素のほとんどは、中間粒子であるので、変化する人や環境にその時に応じて適応できる、という訳です。

そう、この中間粒子が構成する日本の建築こそが、人や環境との関係性を生み出している、という訳です。

まとめ

はい、どうですか。
かなり一部しかご紹介できていませんが、日本の建築の魅力を分かっていただけたかと思います。

まだまだご紹介できていない部分があります。
コンパクトな本ですが、かなり内容の濃い一冊です。
それもそのはず。
なんとこの本、8年もかけて完成させたようです。
まさに建築ですね。

おすすめの一冊なので、是非手に取ってみてください。

はい、という訳で今回は、建築家の隈研吾さんの著書・「日本の建築」について解説してきました。いかがだったでしょうか。
それでは、本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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