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vol.10_紙と、印刷と、宗教改革。

■今回のテーマは、『宗教改革』

紙には色々な価値があります。
その中でも大きなものの1つは、メディアとしての価値です。
今となっては、デジタルにその座を譲ろうとしていますが、それまでは、新聞・雑誌・書籍など、多くの情報を人々に届ける手段でした。

紙の歴史を見ていく上で、無視できない事件が16世紀に起こります。
場所は、神聖ローマ帝国、現在のドイツ周辺にあった帝国です。
ここに、ヤバいお方が現れます。
マルティン・ルターです。

今回は、このマルティン・ルターが引き金を引いた、『宗教改革』という出来事についてみていきたいと思います。

彼は、ヨーロッパに浸透してきた、それから、前回お話ししたグーテンベルクの活版印刷を見事に使いこなし、世の中を激変させます。
紙を、メディアとして最も上手に使いこなした人物の1人です。
逆説で話をすると、宗教改革は、ルターが引き金を引きましたが、紙と印刷がなかったら、この時にこの出来事は起こっていなかったでしょう。
それくらい、紙と印刷がポイントになってきます。

紙が世の中を変えるメディアとなった、最も大きな事例の1つです。
今回は、ちょっと長くなりますよー。
それでは、よろしくお願いします!

■『宗教改革』ってなぁに?

まず、『宗教改革』についてお話ししていきます。
世界には様々な宗教がありますが、今回はその中でも「キリスト教」のお話です。
当時の「キリスト教」は、大きく「カトリック教会」と「ギリシャ正教」という2つの宗派に分かれていました。
そして、今回お話しする宗教改革は、「カトリック教会」内における改革のお話です。

今の私たちには想像しにくいかもしれませんが、当時における宗教というのは、生活の基盤であり、信仰していなければ人として扱われない、それくらい人々にとって重要なものだったんです。
信仰が人としての信用の尺度といっても過言ではないような世界です。

例えば、キリスト教徒の人が、何か大きなことをやらかしてしまった場合、「破門」と言って、“あなたはキリスト教徒ではありません”という宣告を受けることがあります。
破門になってしまった場合、その人は人として扱われません。当時は人権という概念がありませんから、殺されてしまっても何も言えないんです。

「ギリシャ正教」とは違い、「カトリック教会」は、ヒエラルキーがしっかりしていて、組織としてまとめるのがとても上手だったのです。
もちろんどちらとも唯一神のゴッドを崇拝しているのですが、現世においてそのヒエラルキーの頂点に立つのが、ローマ教皇でした。
このローマ教皇こそが、天国行きの切符をもつ、とても重要な人物でした。

そんな世において、自身もカトリック教徒の身でありながら、ローマ教皇に立ち向かった人物、それこそが、マルティン・ルターなのです。

今回は、宗教改革のさわりの部分しかご紹介できませんが、「絶対的権力である教会に、聖書と紙と印刷で立ち向かうルターのお話」をご紹介したいと思います。

■修道士に、俺はなる!

それでは、ルターがどんな人物かをみていきましょう。
ルターは、1483年に神聖ローマ帝国に生まれます。
教育熱心な父親のもとすくすくと育ち、ヨーロッパ最高峰の法学部を擁する、エアフルト大学に入学します。

そんなルターに大きな転機が訪れます。
ある日、雷雨の中エアフルトに向かう途中、落ちてきた稲妻が恐ろしくなり、地面に崩れ落ちて、聖アンナに助けを求めて叫び、修道士になると誓います。
#そんな決断の仕方あるんや!w

その決断をキッカケに、彼は、父親の猛反発を振り切り、修道士の道を切り開きます。
ルターは修道士になると、聖書を読み込み、完璧に自分のものにしていきます。

■贖宥状って、おかしくないですか?

そんなルターが、カトリック教会に対して疑問を抱くことが起こります。「贖宥状」の販売です。
「贖宥状」とは、カトリック教会内で販売されているもので、“買ったものは、罪が軽減される”というものです。

キリスト教では、“人間は罪深い生き物で、日々のあらゆることで罪を犯している”という考えがあります。
その罪を、悔い改めて、償っていくことで、死後の世界が変わってくるのです。
罪を持ったまま死んだ人は、地獄や煉獄という世界に行き、めちゃくちゃキツいことをされます。
なので、現世で罪を償う必要があるのです。
罪を償うためには、通常は、教会に行ってお祈りをしたりしなくてはいけません。

しかし、この贖宥状は、お金を出して買うだけで罪を償うのと同じ効果を得ることができるんです。
なぜか、、
贖宥状を販売する人が、買う人の代わりにお祈りをしたりして、罪を償ってくれるからなんです。
罪を償う代行みたいな感じです。

特にルターが疑問を抱いた点は、“既に死んでしまった人に対しても効果がある”というものです。
大体の人は、天国に行くまでに、煉獄というところ(天国と地獄の中間地点みたいなところ)で罪を浄化します。
もちろん、罪の程度によって、この煉獄にいる期間は変わってきます。
でも、贖宥状を使えば大丈夫!
例えば、“死んでしまった親のために、子供が贖宥状を買えば、煉獄にいる期間を短くできる”みたいなことが可能なんです。

これにルターは、「いや、ちょっと待て!」といいます。
ルターは、聖書を完璧に読み込んでいます。
その上で、「そんなこと、聖書に書いてないですやん!」とツッコみます。

そんな諸々のカトリック教会への疑問を綴った文章を、『95ヵ条の論題 』としてまとめて、この書簡をカトリック教会に送りつけます。
正確には、彼は、カトリック教会にケンカを売った訳ではなく、純粋に、神学のテーマとして議論がしたかっただけだと言われています。

教会側は、最初のうちは穏便に事態を収集しようと努めましたが、ルターは断固として、「聖書に根拠がないことは認められない」と、受け入れません。
ついに1520年に、ルターはローマ教皇によって破門が通告されます。
#破門
#ルター、人じゃない宣言

1521年にルターは、ヴォルムス帝国議会というものに召喚されます。
ここで教会側は、再びルターが記した数々の著作に対して撤回を求めました。
それに対して、ルターは、一晩考えました。なぜなら、既に破門になっている身のルターは、ここで撤回しなければ、殺されてもおかしくないからです。

一晩たって、再び同じ質問がされます。

教会「著作の内容を撤回しますか?(再)」

ルター「聖書に書かれていないことを認めるわけにはいかない。私はここに立っている。それ以上のことはできない。神よ、助けたまえ。」

そう言い残すと、ルターは、処分がくだる前にヴォルムスを離れ、賢公フリードリヒ3世のいるヴァルドブルク城に逃げ込みます。
そして、ルターは、ここで1年余りかくまわれます。

その間、ルターは何をしていたか?

■みんな、聖書を読んでごらん

聖書というのは、元々、ラテン語のものしかなく、数少ない聖職者しか読むことができませんでした。
つまり、ほとんどの人たちは、聖書の内容など知る由もなく、例えば、一般の人たちは、教会で聖書の内容を聞いたとしても、それが本当なのか確認する余地がないんです。
なので、贖宥状の是非について、聖書の内容をもとに議論をしたいルターは、多くの人にその是非を投げかけたい訳です。

そう、ルターは、ヴァルドブルク城で、聖書をラテン語からドイツ語に翻訳します。
そして、それを紙に印刷して、国内中にばら撒きます。

「皆さん、教会がやっていることは、本当にこの聖書に書かれていますか?」
そう国民へ投げかけます。

はい、ここで紙と印刷がめちゃくちゃ活躍する訳です。
ルターが翻訳した聖書は瞬く間に国内に広がり、空前絶後の大ベストセラーになります。

ここから、ルターが思いもよらないほど事態は広がり、カトリック教会から分離した、「プロテスタント」と呼ばれる多くの宗派が出来ていきます。

遂には、国外へも派生し、多くの国々の宗教に影響を与えていきます。
ちなみに、日本に来た、フランシスコ・ザビエルは、この宗教改革の影響で日本に来ています。
日本にまで影響が及んでいるんですね。

更には、当時、領主によって搾取されていた農民が、聖書の内容をもとに戦争を起こすという事態も発生しました。

あくまでルター自身は、終始、神学的な議論をしたかっただけです。
しかし、カトリック教会が分裂し、農民が戦争を起こす事態にまで発展しました。
聖書の翻訳と出版が、世界中に影響を与えるきっかけとなってしまったのです。

■考察

はい、今回は『宗教改革』をご紹介しました。

紙のメディアとしての価値を語る上で、現在では、デジタルメディアの台頭は無視できません。
本格的に移行が進んでいます。

しかし、過去の歴史においては、紙メディアは、メディアの王座にいたことは間違いないでしょう。

今回みてきた『宗教改革』は、その威力を思い知らされる出来事でした。

紙は、大量の言葉を記すことができ、その情報をより多くの読み手のもとに届けることができる、とても便利なツールです。

今回の宗教改革では、紙は、因習打破、つまり、これまでの悪い慣習を打ち破るツールとして機能したと言えると思います。

しかし一方で、センセーショナリズムを助長するツールともなり得ます。つまり、故意に人々の感情を煽って、関心を引き寄せる、ということです。

紙と印刷の登場によって、これまでにない膨大な情報を、不特定多数の人たちに発信できるようになり、人々のコミュニケーションが良い意味でも、悪い意味でも、素早く、膨大になっていった訳です。

それでは、本日はこの辺で失礼いたします。最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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「紙の価値を再定義する」をミッションに、現代の紙の価値を問い直す、RETHINK PAPER PROJECT!

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