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『稲盛和夫一日一言』 5月16日

 こんにちは!『稲盛和夫一日一言』 5月16日(木)は、「素人の発想」です。

ポイント:自由な発想は、既成概念に染まり切った専門家からではなく、素人から生まれるもの。

 2009年発刊の『働き方』(稲盛和夫著 三笠書房)の中で、新しい事業を発展させるためには自由な発想が必要として、稲盛名誉会長は次のように述べられています。

 京セラをはじめ、任天堂、オムロン、村田製作所、ロームなど、京都の優良企業の多くが、もともとその分野では「素人」、もしくは「素人」同然の人物によって創業されています。

 そもそも私の大学での専攻は有機化学でした。無機化学であるファインセラミックスの研究に従事したのは、大学を卒業する直前のことであって、決してこの分野のエキスパートであったわけではありません。

 ファミコンの成功によって大きく発展した任天堂は、もともと花札やトランプをつくっていた会社です。会社を急成長させた三代目社長の山内溥(やまうちひろし)氏にしても、過去にゲーム機やソフトなどはつくったこともなく、その分野ではまったくの「素人」と言ってもいいでしょう。
 
 大手制御機器メーカーのオムロンも、戦後、創業者の立石一真(たていしかずま)氏が、アメリカで初めてマイクロスイッチを見て、「これからは日本でも、制御系統部品が必要になる」と直感したのが始まりでした。
 立石氏はそれまで弱電用の部品をつくったことはなく、やはり「素人」として事業を始めたわけです。

 大手電子部品メーカー村田製作所の創業者 村田昭(むらたあきら)氏にしても、もともとは京都の東山、清水焼の古里と言われるところで仕事をしていた方で、戦時中に軍から、酸化チタンを使ったコンデンサをつくってほしいという要請を受け、新しいものにチャレンジしたことで今日があるわけです。

 ロームも特色のある電子部品メーカーですが、創業者の佐藤研一郎(さとうけんいちろう)氏は、もともとは音楽を志した人で、学生時代にカーボン被膜(ひまく)抵抗器を効率よく製造する技術を自分で確立し、それをベースに事業を始めたのが創業のきっかけでした。その意味では、「素人」社長だったわけです。

 これらは偶然の一致ではありません。そこには、「素人」でなければならなかった明確な理由があるのです。それは、「自由な発想ができる」ということです。
 「素人」は、既成の概念や慣習、慣例にとらわれず、常に自由な発想ができる。それが新しいことに挑戦していくにあたって、最大のメリットとなるのです。私がそれに気づいたのは、京セラを創業してから数年たったころのことでした。

 先発で、京セラよりはるかに企業規模が大きい、日本有数のセラミックスメーカーから、ある製品を生産してほしいとの依頼があったのです。
 当初は、「欧米のメーカーからファインセラミックスの注文が増えているので、自分たちだけではこなし切れない。だから、京セラにも製造をお願いしたい」という内容でしたが、よくよく聞いてみると、先方の狙いは、その製品の製造を通じて、京セラのファインセラミックス技術を吸収することにありました。

 私はきっぱりとお断りしたのですが、先方の社長がそのとき、正直にこんなことを言っていたのを今でもよく覚えています。
 「わが社の研究所には、有名大学の窯業(ようぎょう)コースを出た優秀な研究者がたくさんいる。失礼な話だが、稲盛さんは地方大学の、それも有機化学出身と聞く。また、あなたの会社にドクターはほとんどいない。なぜあなたの会社にできて、わが社にできないのか」

 そのとき、私は気づいたのです。「創造」というものは、「素人」がするもので、「専門家」がするものではないということを。
 新しいことができるのは、何ものにもとらわれない、冒険心の強い「素人」であり、その分野で経験を重ね、多くの前例や常識を備えた専門家ではない。

 皆さんにはぜひ、自由な発想と強烈な願望を持って、新しいことにチャレンジしていただきたいと思います。(要約)

 2015年発刊の『稲盛和夫経営講演選集 第1巻 技術開発に賭ける』(稲盛和夫著 ダイヤモンド社)の中で、「革新的なことを成し遂げるのは素人だ」として、名誉会長は次のような持論を紹介されています。

 私は、革新的なことを成し遂げるのは素人だと思っています。専門ばかでは絶対にできません。
 もちろん、専門的な知識や技術は持っていなければなりません。しかし、専門性を軽視するわけではありませんが、専門の中にどっぷり浸かり込んだ人では、革新的な研究開発は絶対にできないと思います。素人にこそ、革新的な開発ができるのです。

 いくら専門家であっても、常に素人と同じような新鮮な目で物事を見ていくことが大切です。常に好奇心を持ち、常に澄んだ目で物事を見ていく。そうした素人のような純粋な目でなければ革新的なことはできないと思います。

 専門の中にどっぷり浸かり込んだ専門ばかよりは、素人を起用したほうが成功するケースが非常に多いというのが、私が経験から感じていることです。(要約)

 その道のプロフェッショナルでありたいと、努力を惜しまないこと。
 そして、常に「素人」のようなフレッシュな感性で事象を見つめること。

 何かしら新しいものを生み出していくためには、どちらも大切にしていかなければならない姿勢ではないでしょうか。


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