バルトーク：管弦楽のための協奏曲 Sz.116
09:55 2. Presentando le coppie
15:45 3. Elegia
23:35 4. Intermezzo interrotto
28:04 5. Finale
1946年2月4日と5日に録音されたバルトークの「管弦楽のための協奏曲」は、フリッツ・ライナー指揮、ピッツバーグ交響楽団による歴史的な演奏です。この録音は、バルトーク自身が彼の音楽を非常に理解し、尊敬していた指揮者によって指揮されており、そのため特に注目されています。
### フリッツ・ライナーについて
フリッツ・ライナー（1888-1963）は、ハンガリー出身の指揮者で、20世紀の偉大な指揮者の一人とされています。彼は特に正確な指揮スタイルと、楽譜に忠実でありながらも情感豊かな演奏で知られています。ライナーはバルトークと同じハンガリー出身であり、バルトークの音楽に対して深い理解と敬意を持っていました。彼の指揮によるバルトーク作品の演奏は、しばしば「決定版」と見なされることが多いです。
### ピッツバーグ交響楽団について
ピッツバーグ交響楽団（Pittsburgh Symphony Orchestra、PSO）は、アメリカ合衆国ペンシルベニア州ピッツバーグを拠点とするオーケストラで、1895年に設立されました。1940年代には、フリッツ・ライナーが音楽監督を務め、オーケストラのレベルを飛躍的に向上させました。この時期のPSOは、ライナーの厳格な指導のもとで、非常に高い演奏技術を誇り、国際的にも評価される存在となっていました。
### 録音の背景と意義
バルトークの「管弦楽のための協奏曲」は、1943年にアメリカへ亡命したバルトークが、後期の創作期に作曲した作品で、彼の作品の中でも特に人気が高いです。この作品は、彼がアメリカで最初に受けた重要な委嘱作品であり、バルトークの音楽的な円熟を象徴しています。
ライナーが1946年にピッツバーグ交響楽団を指揮して録音したこの演奏は、バルトークの音楽がどのように理解され、演奏されるべきかを示す重要な記録です。この録音は、ライナーが持つバルトーク音楽に対する鋭い洞察と、彼の指揮によるオーケストラの緻密な演奏が見事に融合しており、今日でも高く評価されています。
この録音は、ピッツバーグ交響楽団の音楽的実力を世界に示すものであり、ライナーが指揮者としてのキャリアを築く上での重要な一歩となりました。また、この録音を通じて、バルトークの音楽がアメリカでも広く受け入れられるようになり、彼の作品がクラシック音楽の標準レパートリーとして確立される一助となりました。
バルトークの《管弦楽のための協奏曲》Sz.116は、彼の晩年における代表作の一つであり、その作曲経緯や背景は非常に興味深いものです。
### 作曲の背景と経緯
バルトークは、ハンガリー生まれの作曲家であり、彼の作品にはハンガリーの民族音楽の要素が強く反映されています。しかし、1940年に第二次世界大戦が勃発すると、バルトークはナチスの脅威から逃れるためにアメリカに移住しました。アメリカでの生活は彼にとって困難なものであり、特に健康面と経済面で多くの苦労がありました。バルトークは病気（白血病）のため体力を消耗しており、作曲活動も一時停滞していました。
そんな中、セルゲイ・クーセヴィツキーの依頼により、バルトークは《管弦楽のための協奏曲》を作曲することになりました。クーセヴィツキーは、バルトークの医療費を支援するためにボストン交響楽団のための作品を依頼し、1943年にバルトークはこの委嘱を受けました。この依頼により、バルトークは再び作曲への情熱を取り戻し、短期間でこの大作を完成させました。
### 楽曲の構成と特徴
《管弦楽のための協奏曲》は、1943年8月から10月にかけて作曲され、1944年12月1日にボストン交響楽団によって初演されました。この作品は「協奏曲」というタイトルが付けられているものの、伝統的な独奏楽器とオーケストラの対話ではなく、オーケストラ全体をソリストとして扱うような構造になっています。そのため、各楽器セクションや個々の楽器が対等に扱われ、華やかな音楽のやり取りが展開されます。
楽曲は全5楽章から成り立っています。
1. **第1楽章: Introduzione (Andante non troppo - Allegro vivace)**
- この楽章は序奏部と急速なメインセクションからなり、バルトーク特有のリズミカルで劇的な音楽が展開されます。
2. **第2楽章: Giuoco delle coppie (Allegretto scherzando)**
- この楽章は「二重奏の遊び」とも呼ばれ、異なる楽器ペアが次々に登場してユニークなリズムとメロディを奏でます。非常にユーモラスで、軽快な雰囲気を持っています。
3. **第3楽章: Elegia (Andante non troppo)**
- この楽章は楽曲全体の中で最も内省的で、深い悲しみと美しさを持つエレジーです。バルトークの心情を反映したとも言われるこの楽章は、彼の病気や祖国の喪失感が感じられます。
4. **第4楽章: Intermezzo interrotto (Allegretto)**
- この楽章はユーモラスな要素が強く、「中断された間奏曲」という意味を持ちます。楽章中盤で突然音楽が中断されるようなユニークな構造が特徴です。また、この楽章ではドミトリー・ショスタコーヴィチの《交響曲第7番》の主題が風刺的に引用されています。
5. **第5楽章: Finale (Pesante - Presto)**
- 最終楽章はエネルギッシュで、フィナーレにふさわしい力強い楽章です。リズムとメロディが躍動感に溢れ、オーケストラ全体の技術が結集されます。
### まとめ
《管弦楽のための協奏曲》は、バルトークの作曲技法の集大成ともいえる作品であり、彼の民族音楽への深い理解と、独自のリズム感覚、オーケストレーションの巧みさが存分に発揮されています。また、バルトークが困難な時期にあっても創作への情熱を持ち続けた証ともいえるこの作品は、クラシック音楽の中でも重要な位置を占めています。
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