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柳原良平主義〜44〜

客船と貨物船


どちらが好き?

柳原良平は、豪華客船より貨物船のほうが好きだと聞いた。豪華でラグジュアリーな船も素晴らしいが、どちらかというと力強い貨物船に、より大きな魅力を感じるという。

長い航海の間、人を飽きさせずに楽しませ続ける客船を人に例えるなら、芸人でありコンシェルジュであり、またシェフやソムリエであり、手品師でもあるといった、総合エンターテイナーになるだろう。

一方、シンプルに機能を果たす貨物船は誠実なビジネスパーソンだ。人に例えるなら、お客となったすべての荷物たちを守る、頼もしき警備員であり、車にせよ石油にせよ多数多量の、つまり相当な重量のお客を乗せて約束を守る力自慢の配達人だ。

美の必要性

あくまで想像の話だから、柳原はそんなことは思っていないだろう。だが客船と貨物船の見た目で最も大きな違いとは、優雅さと信頼感にあるように思える。船、特に客船はよく女性に例えられるが、貨物船は男性に例える方が自然だと感じる。

つまり客船は美しい佇まいが求められる。いたるところに美がなければ客は満足しない。それに対して貨物船には、美はひとつだけあれば十分。つまり機能美という美だ。

機能美とは?

別に客船に機能美が不要だとは思わない。客船にとっての機能美は条件というより前提で、それ以外のさまざまな美が求められるというだけの話。豪華客船が建築デザインに例えられるのがよくわかる。

一方、貨物船が持つ機能美とは何か。もちろん建築デザイン的な要素はあるが、貨物船の建築デザインとは美しさを求めないストイックさにある。美を求めないのに機能美が存在するのは矛盾しない。というより、美を求めないからこそ機能美が生まれるのだと思う。

外見の違い

というわけで前置きが長くなったが、今回は柳原良平が惹かれた機能美についての話だ。そしてそれを、柳原作品の中に見出したいと思う。

客船と貨物船の違いはどこか。まあ色の鮮やかさにおいて歴然とした差異があることは当たり前として、まずは窓の数が圧倒的に違う。甲板から上の建造物の高さも量感も違う。それらは誰でもわかることだから、柳原の作品の中でも当然のように描き分けられている。

そこで描く線に注目してみた。すると貨物船のほうが圧倒的に直線が多い(長い)ことに気づく。これは平面部の面積が多いから必然的にそうなるのだが、他にもマストの多さが原因だったりする場合もある。また積まれたコンテナも直線的だし、小型の貨物船に取り付けられたクレーンなども直線だ。

柳原作品に現れる特徴

柳原作品に限っての特徴という意味では、切り絵を見るとそれがよくわかる。切り絵はもともと色と色の境目がシャープになる手法だが、直線の多い貨物船の場合はそれがより引き立って見える。

柳原の切り絵はどれも美しいが、貨物船の切り絵には、さらに機能美が加わる。柳原はきっと機能美を考えながら切り絵を制作したりはしないと思う。だからこそ、見る者にとって機能美が浮き彫りになって迫ってくる。(以下、次号)


※編注
「船キチ」という表現は「尋常ではない船マニア」といったニュアンスを表しています。柳原良平が自著の中で、主に自身に対して頻繁に使用している表現ですが、そこに差別や侮蔑の意図はまったく感じられません。従って本コラムでは、他の言葉に置き換えず、あえて「船キチ」という単語をそのまま使用しています。                                                                                                               

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