柳原良平主義 ~RyoheIZM~01
どこが良いのか言えない、もどかしさ
船画の魅力、人物画の面白さ
柳原良平による船の絵。それはときに埠頭に停泊して浮かぶ豪華客船であったり、ときにクレーンで荷役作業中の力強いコンテナ船であったりする。作品によっては客船の甲板から手を振る旅客や、貨物船のブリッジで針路を見つめる船長が描かれていたり。
船自体の絵は写実的な絵とはかけ離れた作風にもかかわらず、独特な緻密感・凝縮感が滲み出ているのに対して、人物の方は思い切りマンガチックにデフォルメされている。
日本における3大海運会社のひとつである商船三井は、毎年作成するPR用卓上カレンダーに、表紙はもとより1月から12月の全ページにわたって柳原良平の絵を採用し続けている。つまり柳原が描く船の絵は、船のプロである商船三井のスタッフたちの琴線にも触れる、高いクオリティの作品であることを証明している。
一方の人物画のほうは?といえば、代表作の「アンクルトリス」名義で登場したキャラクターが、戦後復興〜成長期(1958年)に登場して久しい(どころではない)が、今なおトリス・ウィスキー(サントリー)のCMで、吉高由里子と共演し、全国レベルで親しまれる存在となっている。
一方、柳原が船の絵に描いている同キャラクターは「アンクル船長」名義となっており、その認知度はアンクルトリスには遠く及ばないが、柳原ファンに取っては格別の魅力に映っている。鉄の構造物である船に、温もりを与えているからだ。
なぜ人の心に訴えるのか?
それらが渾然一体となって描かれた彼の作品を目の当たりにすると、ついつい絵のあちこちを観察するに至りさらには、その背景までが気になり始める。そうこうするうち、あれこれの思いにかられた自分に突然気づく。いわく「なるほどー」とか「あれ、ひょっとして」とか。
つまり柳原良平の作品は不思議に見飽きない。この「不思議に」、というところがミソで、なぜ見飽きないのか、その理由がわからないから余計に知りたくなる。
これは、好きな女のどこが好きか?と聞かれて即答できないのに近い。ただ自分が好きな女の美点など、どんなに頑張って並べたところで個人的すぎて誰の得にもならない。
一方で好きな絵のどこに魅了されるのか?というテーマなら、柳原良平という多くのファンを持つ作家の作品群が対象である限り、同好の士やコレクターから思わぬ反応が得られたり、彼の作品に馴染みでなかった人々に対して新たな魅力をアピールできたり、といったポジティブな展開が期待できる。
そんなわけで作品の魅力の源泉を探らんと、あれこれ調べていったのだが、柳原良平という人物は調べれば調べるほど、とんでもない才能の持ち主であることはもちろん、とんでもない「船キチ」であること、さらにはとんでもない教養人であることがわかってきた。
そうだ、話を聞きに行こう!
調べるだけでは飽き足らなくなり、故人である柳原良平をよく知る人々に、話を聞いて回ることを思いついた。それらの人々とは、御子息である柳原良太氏や元・横浜みなと博物館館長の志澤政勝氏、それから元・商船三井の中島淳子氏や大貫英則氏、さらには横浜の美術史を幕末から研究してきた帝京大学名誉教授・岡部昌幸氏といった、さまざまな縁で柳原良平と交わりを持った人たちだ。運良くそれらの方々は、当方からの取材依頼を快く引き受けてくれた。心から感謝の意を表したい。
取材も進んできたので、得られた貴重なコメントの数々を、世に出ている彼の作品や出版物に関連づけ、連載コラムというかたちでその才能や人間的魅力に迫ってみたい。そして最終的には、彼が生み出した作品の魅力の源泉にたどり着ければといいなと思っている。
恐れ多いことは承知の上で、柳原良平の作品群、そして人物の魅力について「あくまで素人目線で」語るこの「note:柳原良平主義〜RyoheIZM〜」を始める。作品の詳細や柳原良平という人物について詳しく知る方々の目に届いたら嬉しい。そしてもしご意見やご教示をいただけたら、もっと嬉しい。さらには、柳原良平を知らなかった人たちから共感が得られたら、もっともっと嬉しい! (以下次号)