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人智を超えたヴォーカリスト:人見元基

https://www.youtube.com/watch?v=cHyulMUXBE8

人見元基氏(‟ひとみげんき“と読む。以下、敬称略)という人智を超えたヴォーカリストの話をしたい。かつて日本にVOWWOWというバンドがあった。メンバーはいずれも凄腕であり、常に高品質のアルバムを出し続け、やがて日本を飛び出してイギリスやアメリカでも活躍したが様々な事情から1990年に解散してしまった。

人見はそのVOWWOWのヴォーカリストだった。音域、声量、持続力、どれをとっても驚異的であり、日本に並ぶもの無しと言われていた。真偽のほどは定かではないが、かの桑田佳祐がラジオで「人見元基の歌を聴いたら日本の歌手なんて学芸会レベルだよ」と言ったと都市伝説的に語られるほどのシンガーである。いくら文字で書いてもその凄さは伝わり切らないので、記事冒頭の動画をまずはご覧いただきたい。

この1曲だけでも凄いが、人見の凄さはライブを通してこの声が全く乱れずパワーも落ちないことだ。また、パワフルなシャウトやハイトーンの歌唱だけではなく中低音域のヴォーカルワークも絶品であり、全方向において隙が無い。

VOWWOW解散後、これほどのヴォーカリストを他のバンドが放っておく訳はなく、様々なオファーがあったという。しかし人見は「もうコマーシャルな(商業的という意味であろう)世界では歌わない」と宣言してその全てを断り、あっさりと第一線から退いた。

人見が次に選んだ職業は何と教職だった。英語の予備校教師を経て、千葉県内の公立高校の英語教諭に就任する。人見の英語の授業は教科書に縛られ過ぎないやり方で非常に面白く、かつ分かりやすかったという。クラス担任を任され、英語スピーチコンテストの担当教諭でもあったというから学校側の信頼も厚かったと考えられる。

授業ではバンド時代の話を一切しなかったそうだが、学校の文化祭や卒業式ではその力を解放し、驚異的な歌唱を披露して生徒の度肝を抜きまくっていたらしい。目の前であの歌を聴けるのは羨ましいとしか言いようがない。間近で世界レベルの歌唱に触れられたのは生徒にとって何よりの情操教育だったのではないかと思う。

文化祭の例もそうだが、人見は完全に音楽から離れていたわけではない。ゲストで呼ばれて音源を残したり、小規模のライブにセッション参加したり、2010年にはVOWWOWの限定復活ライブにも参加したりしている。そこでも素晴らしい歌唱を披露してファンを喜ばせたが、いずれも継続的な活動ではなかった。

時は流れ2023年、VOWWOWのドラマーだった新美俊宏氏(以下、敬称略)が癌のため亡くなってしまう。人見を含めたVOWWOWのメンバーは悲しみに打ちひしがれた。だがこれを機にリーダーの山本恭司氏(以下、敬称略)はこう思うようになる。「人間、いつ何が起こるか分からない。やれる時に、やれることをやろう」

そして新美が逝去して約半年後、人見を含むVOWWOWのライブ開催が発表される。VOWWOWの1stアルバム「Beat Of Metal Motion」の発売40周年、新美の一周忌にちなんだライブと銘打たれていた。人見がまたVOWWOWを歌う!14年間待ち続けていたファンは狂喜し、チケットは瞬時に完売した。

しかし、いかに人見が規格外のシンガーとはいえ最後にVOWWOWを歌ってから14年、第一線を退いてから数えると34年も経っている。超ハイレベルなVOWWOWの楽曲を今の人見はどこまで歌えるのか、そんな思いも抱きつつ、ファンはその日を心待ちにしていた。

そして2024年6月末、遂にその日は来た。

人見の歌唱は…維持されている!

ハイトーンもパワフルなシャウトも全く変わっていない、あの時のまま。信じられない!それどころか、中低音域の深みが増し、総合的な歌唱力ではVOWWOW現役時代を上回っていると言えるほどの歌唱だった。

絶唱に次ぐ絶唱。
休憩時間を設けつつも、人見はライブ全編にわたり壮絶な歌唱を聴かせた。齢66にしてLED ZEPPELINのロバート・プラントの全盛期に匹敵する歌唱を聴かせるシンガーが、世界のどこにいるというのだろうか?

私達は知っている。
そう、ここ日本にいる!
日本には人見元基がいるのだ!

曲の合間で、山本は「新美がみんなを集めてくれた。新美のおかげなんだ」と言っていた。その横で人見は少し寂しそうな、でも実に幸せそうな表情で山本の言葉を聞いていた。

ライブ中、人見は冗談っぽく、しかし非常に気になる言葉を発した。「今季より、プロ入りします」
世界一のアマチュア(?)シンガーという異名を持つ人見が「プロ入り」という言葉を口にした。
これは…。
また、山本もこんな言葉を発していた。「VOWWOWという奇跡を続けていくべきなんじゃないかと思っています」

この2つから導き出せる推論は「人見を含むVOWWOWが本格的に復活するのではないか」ということである。稀代のシンガー人見元基が、VOWWOWという最高のバンドで本格的に帰ってくるかもしれない。そしてそれが今後も続くかもしれない、という奇跡。

その奇跡が本当に起きるのか、起きたとしてもいつまで続くのかはまだ分からない。今回の公演の反響を受け、VOWWOWは来年初頭に追加公演を行うことになった。それが奇跡の序章になることを、私は切に願っている。

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